第6話 武家の子、紫乃
「えっ待って。やっぱそうだよね。てか、あたし冷静すぎん?レンくんのおかげじゃん」
この期に及んでも、彼女の心にはレンの存在しかなかった。
「はぁ〜レンくんに会いたい」
「桃子様、よろしいですか」
襖の向こうから声が掛かる。
「え、なに?」と桃子が返事すると
「福様がお呼びですので」と返ってくる。
桃子は襖を開け、呼びかけに来た女、紫乃に詰め寄る。
「ねぇ、福ってなにものなの?この城で権力あるっぽいじゃん?」
桃子はアヒルの子の様に福の後を着いて、町から城へとやってきたが、城へ入ると、福に対して女たちが身を縮こませ、頭を下げる姿を見た為に、ようやく福の存在に関心を抱いた。紫乃はグッと近づく桃子から距離を取った。
紫乃はため息をつく。
「あなた、本当に何もご存知ないのですね」
紫乃は既に桃子に対して苦手意識を持っていた。武家の娘として厳格な躾を受け、白百合の如く、清らかに育った紫乃にとって桃子の様な激しい女は異質でしかなかったのだ。
「あからさまに不機嫌じゃん。福、呼んでるんでしょ。はよ行こ」
心に思う事を全て吐き出してしまう桃子。紫乃は反面、羨ましく感じた。自身の感情をそのまま口にする事など言語道断。
「なんて自由な方なの‥」
紫乃は静かな声で言った。
桃子は紫乃の事など気に留めず、廊下を歩き始めた。
進んでいく桃子の背に
「そちらではありません!こちらです!」
と呼びかける。
「いや、知らんのだが〜」
完全に桃子の空気に流されている。
紫乃は自分に喝を入れた。武家の娘として、お家に恥じない様、また、憧憬する福の期待に応える為、この女に流されるわけにはいけない、と思ったのだ。
「福様が待っております!急ぎますよ!」
紫乃は桃子の痩身な腕を掴んだ。ぐいぐいと彼女の腕を引っ張り、自身の歩く速度に合わせる。
桃子は自分よりも小さな紫乃に秘められた力強さに引かれるまま、福の待つ部屋へと向かった。
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