将軍啓嗣篇

第5話 桃子、江戸城登城。

「てかさ、気づいちゃったんだけど。あたし、転生したくさくない?」


 桃子は今、江戸城内の一室にいる。


「ここはそなたの部屋じゃ。自由に使ってよい」

 と福に連れられ、与えられた部屋で一人。桃子はようやく事態を把握した。


 情緒が多少不安定な彼女が、こうして奇想天外な事態をすんなりと受け止めることが出来たのは、やはり桜庭レンのおかげであった。


 時を遡ること2018年秋———

 この日も桃子はレンに会う為に店に訪れていた。


「えっレンくん趣味読者なのぉ?すごぉい。インテリ〜」


 秋の話題を持ちかけた桃子にレンは読書が趣味であると言った。


「うん、そうかな」

 レンは控えめに照れる。

「何読むの〜?レンくんが読んでるやつ桃、読みたい」


 小学校以来、ろくに本も読んでいない桃子がよく言えたものだ。ちなみに桃子は気に入った者の前では一人称が桃になる。


「持ってくるからちょっとまってて」


 レンは嬉しそうに本を取りにいった。

 桃子も気分が良かった。担当の趣味を掘り出せたこと、そして喜ばせたこと、全てが彼女にとって生きがいとなるのだ。


「桃ちゃん、お待たせ!これ、感想聞かせてね」


 そう言って手渡された本は、彼女がその日に持参した札束よりも分厚く、表紙に書かれた題名がじゅげむ並みに長かった衝撃を忘れることはない。


 彼女は徹夜し、読み終え、翌日真っ黒な下瞼をコンシーラーでカバーし、感想を述べに店を訪れたのだった。

 全てはレンの喜ぶ顔を見る為だ。そんな思い出深いエピソードを焼きつけた本が転生ものだったことを桃子は大雑把に覚えていた。

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