第22話 次、浮気したら戻りませんからね

 その日、こってりと絞られたジュード殿下と、王宮でメイドたちが手ぐすね引いて待っておりぴかぴかつやつやに磨き上げられた私は、寝室で再会した。


 ベッドサイドの私側に飾られた殿下からの花束にちょっと照れ臭そうに笑うと、殿下も微笑み返してくれた。


 この人なら大丈夫。間違えること、変わること、今後もたくさんあるけど。


「殿下、今日は手を繋いで寝てもいいですか?」


「手を……? あ、あぁ、かまわない」


 私はもっと可愛く、素直になろうと思う。尊敬と愛情だけじゃなく、恥ずかしいことも、この人になら見せられるように。


 そして、見せてもらえるように。


 お互いベッドの端と端(と言っても充分な広さがあるし上掛けは別だ)から入ると、子供の時以来の近さで私と殿下は手を繋いだ。


 私には安寧の神の加護がある。それでも、この大きくて男らしい手が、私のことを守ってくれる手だと思うと安心できた。胸の奥に自分だけじゃなく、この人がいる、という安心感。


 殿下はどう思っているかな。はしたないとか思わないかな。


 そう思って横目で殿下を見たら、じっと私の顔を凝視していた。思わず顔が赤くなる。


「で、殿下、何故見て……」


「いや、ルーニアはこうも美しいのに、私は何故それを気にも留めていなかったのかと自分で不思議に思っているところだ。……なぜつねる?」


「そういうことは、黙っておいてください。気にも留めていなかったのところです。失礼ですよ」


「それは、そうだな。すまない。……だが、本当に綺麗だな」


 寝室は寝るだけの場所なので、常に薄暗くなっている。そんな頼りない灯の中で、少し積極的になってみようと手を繋いでみたら、これだ。


 殿下の頑健の加護は目にはかかってないのではないだろうか? このくらい距離が近くないと、女の顔が見分けられないとかだったらどうしよう。


「ジュード殿下」


「うん?」


 恥ずかしいけれど、こちらからも顔を向けて殿下を見る。優しくて、頼れる男性だと思う。少し……かなりウブで、騙されやすいけれど。


 私のことを想って胸が張り裂けそうになったと言っていたな。私に許してはだめだと。


 根に持っていいみたいだし、私も今日笑ったことを根に持たれよう。それってたぶん、思い出、って名前がつくと思うから。


「次、浮気したら戻りませんから」


 これだけは、言っておかないと。


 失敗も恥ずかしいこともお互いたくさんするだろうし、殿下も歌手にはまったりするかもしれない。それくらいなら、……ちょっと態度で示してくれたら許そう。逆も一緒、私にだって何が起こるかわからない。


 だけど、婚約破棄も、他に女性を作るのも、もう許さない。根に持つだけじゃ済まない、今度こそ陛下を説得して、両親と一緒に国でも出てやろう。


「わかっている。ルーニアと離れることも、離れられるようなこともしないと、私も誓った」


「何にです?」


「私自身に。……その時、私がそんな愚かな間違いを繰り返すようなら……自ら廃嫡されて地下牢に籠る。跡取りはどうとでもなるからな」


 陛下のお子は殿下だけで、今は王位継承権は殿下のみが持ち、王太子ですが、その後陛下が後妻をとらなかったのは、陛下自身には兄弟がいて、お子がいるから。


 王家の血が絶えることは、殿下がいなくても、ないのです。


「いい国にしていけるように、私たちも頑張りましょうね」


「あぁ、ルーニアがいてくれるなら。……おやすみ、ルーニア。また明日」


「はい、殿下。また明日。おやすみなさい」


 私たちは久しぶりなような、そうでもないような挨拶を交わして、その日、ぐっすりと眠った。


 明日からは、また日常が始まる。

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