第19話 私が本当に全面的に心から悪かった(※ジュード視点)

 翌朝、久しぶりに熟睡をした私は、応接間でルーニアと2人、朝食をとっている。


 城と違って毒見役はいない。この屋敷の者はルーニアの身内だ。私は毒は効かないし、ルーニアの身内にルーニアを殺そうとする者などいない。


 温かく湯気を立てるスープに、まだ温かいオムレツとベーコン、焼きたてのパン。温かい食事がこんなに落ち着くものだとは思わなかった。


「……最近、お城の方はどうですか? 殿下も公務が溜まっているでしょう」


「あ、あぁ……なんとかやっていたんだが、内容がめちゃくちゃで……宰相に取り上げられた」


「ふふ、まぁ……では、私も手伝いますから、帰ったら徹夜で仕事ですね」


 ルーニアの笑いながらの言葉に、私は思わずカトラリーを手から落としそうになった。


「か、帰ってきてくれるのか?!」


「はい。——昨日、両親には、玄関に穴も空いたので、殿下と喧嘩したと話しました」


 ルーニアは優雅に食器を使いながら、日常会話でもするように話す。


 私は彼女の言葉の方が大事で、手が止まってしまっている。


「私がこの先も殿下と一緒にいたいなら仲直りのコツを教えてくれる、と言われました。私が、嫌だ、と言ったらあらゆる方法でこの国を出るつもりじゃなきゃ、私に選ばせませんから。……私は教えてもらう事にしました」


「……」


「日常に戻ること。白黒つけようとしないこと。態度で示すこと。だそうです、殿下。私たち、喧嘩の種がそもそも無いので、周りの人も巻き込んで婚約破棄なんて話になりましたけど……」


 ルーニアの言葉に、ルーニアの両親の思いに、私は言葉を詰まらせる。泣きそうだ。


「私たち、喧嘩の始め方も下手なら、喧嘩をしたことがなかったので仲直りも下手です。だから、日常に戻って、昨日の言葉で白黒つけない事にしました。玄関に空いた穴が、殿下の態度です。……でも、根には持っていていいみたいですけどね」


「そうか……、そうだな、根に持っていてくれ」


 私は堪えられずに涙を流した。ルーニアも私も、二人親の揃った環境で育っていない。ルーニアは王宮にいて、父上は母上を亡くしている。見本がいないまま、喧嘩をした……私のこれは喧嘩で済まされてしまってはいけないと思うのだが……、ルーニアは、喧嘩ということで済ませようとしているらしい。


 分かっている、これは甘えだ。恥ずかしいことだ。眠って、ちゃんと考えられる頭で、それで済ませていい話ではないとルーニアに言わなければいけない。


 俯いて涙を拭い、顔を上げた先のルーニアは、そんな事全部わかっているという顔で。


 白黒つけない……つまり、私は謝ってはいけない。一生根に持たれていなければならない。


 全て、私が、全面的に、心から悪かった。ルーニア。私たちはこの先まだ何か間違える事はあるだろう。だが、決して。


 決して二度と離れるような真似だけは、離れられるような真似だけはしない。


 そして、私はもう一人……ミナには、自分で決着をつけなければいけない。彼女とは、一生を共にする事はできないと、だから、白黒をつけなければいけない。


「明日、迎えにくる。もう一日待っていてくれるか?」


「えぇ、殿下。帰省の機会をありがとうございます。実家というのは、いいものですね」

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