第16話 ありえないんですけど?!(※ミナ視点)

 急に王宮からの兵士が家に乗り込んできたんだけど?! 家族全員居間に集められて、国王陛下からの勅命を破ったことにより忠義無しと判断されて……とかなんとか、とりあえず長々と聞かされたけど、最後に、よってペリット家の爵位剥奪、及び官僚への不適切な対応によって家財の全ての没収、って何それ?!


 もぉお、オヤジもオカンも何やってくれてんの?! 安心させたげよ、って内緒だからねって教えたのに、さっそくバラしたわけ?! 馬鹿じゃないの?!


 殿下も殿下よ、これこそ可哀想じゃない! 私の事助けるとか庇うとかしなさいよ! ムカつくわ、マジでムカつく、これならまだ稼いでる冒険者とかひっかけた方がマシだった。


 世間知らずのボンボンだから簡単に騙せたのに、何のためにそんなカモにしてくださいってあほヅラ下げて酒場に来た奴に甘えて擦り寄って泣き落とししたと思ってんのよ! 全部私が楽したいから! 全部私が贅沢をして暮らしたいからに決まってんでしょ!


 真実の愛なんてもん、この世にあると思ってるお花畑クンの相手をするのがどれだけめんどくさかったか。落とすのに何日かけて、どんだけベタベタしてやったと思ってんのよ。


「ふざけないでよ! 私は騙されただけじゃない! 婚約破棄なんて殿下が一方的に言ってただけでしょ?! なんで一方的に……私だって、こんな苦労したくてしてるわけじゃないのに……!」


「……陛下よりは、勅命を守っていれば、王家から後に多額の慰謝料とペリット子爵令嬢へ見合いの相手を斡旋する心算はあったと。そして、その為の淑女教育を受ける機会も。殿下のお気持ちが本物だと証明された時には確かに婚約破棄の後婚約する可能性もあったと。……ただ、全ての機会を失ったのは、陛下の命に背いた貴女のせいです」


「……ッ!!」


 黙っていさえすれば、私は望むものが手に入った。


 別に殿下じゃなくていい。私が何不自由なく暮らせるなら、誰だってよかった。


 私の中にあったのは、金持ちの男と結婚したい、という気持ちだけ。殿下個人への気持ちなんて無い。どうやったらこの男が私にハマるのか、それしか考えていなかった。


 目の前にいくつかのトランクが置かれる。


「これは殿下よりの下賜品です。——着る機会も無いでしょう。売って金にすれば、平民として暮らすには充分な家と、しばらくの生活費にはなるでしょう」


 それは、王宮に通うために用意された私のドレス。


 もう二度と着る機会がない、豪奢で、綺麗で、可愛いドレスたち。宝飾品に、華奢な靴。


 床に手をついて、私は声にならない叫びをあげた。


 どこで間違えたのか? そんなの、あの男が食堂に来たのが間違いなのよ!


 許さない……絶対に許さないんだからね……、見てなさい……。


 私と両親はそのトランクを持って、王都の平民街へと連れられていった。


 他に持ち出せるものなんて、とっくの昔に何にもなかった。

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