第12話 人間は何日寝なくても平気なの?
「人間って何日寝なくても平気なの?」
「……逆にお尋ねしますが、今何日目です?」
「そうね、2晩1人で寝たから、3日目かしら」
リュークは私と殿下の加護を知っている。その厄介な体質のせいで、私が眠らせたこともあったし、殿下の無限の体力に付き合って気絶したこともあるからだ。
「……俺もね、騎士になるのに行軍の訓練とかもしましたけど。1日置きに3時間の仮眠を取って、それでもちょっとした事でキレそうなくらいにはキツかったっすね。仮眠も取れないわけですから、まぁ……あと1日、じゃあないですかね。精神的に。ありゃあキツいっすよ」
リュークがスプーンを置いて真剣な顔で答える。よほどまずいらしい。
明日になれば3晩寝てないことになる。というか、今の話を聞くに、今日はもう既に大変な精神状態じゃないだろうか。
自分から戻ろうか、と少しソワソワとしてしまう。殿下のことは大事だし、リュークの話を聞いていると、どうにもただの気まぐれというか……物珍しさであの子を可愛がっているように思う。失礼ながら、愛玩動物を可愛がるような。
私も一人で散策して思ったけれど、恋人同士の初々しい感じや、もっと距離の近いスキンシップなんかは、はしたないと思ってやったことがなかった。
私がやらないのだから、殿下もやられたことはない。下手したら不敬罪になる。そんな愚かなことをする人は、そもそも王宮に来ないのだ。
そして、お忍びで……まぁ護衛の方はついていただろうけど、害をなすわけではない少女が殿下にちょっと抱きついたところで……お忍びに行っているのだから不敬罪だとかは言えるわけもなく。
つまり、殿下は初めて私以外の……いえ、私も含めた女性から、最も距離が近い甘え方をされてドキドキしてしまったのを、恋だと……このドキドキは人生で初めて感じた、守ってやらなければという使命感もあいまって……真実の愛だと言ったわけだ。
あ、なんか分かってきた。今頃、絶対気持ちが冷めている。
だって殿下、頑健の神の加護が赤子の時からどんどん強くなっているから、騒がしい場所なら気も散るけど、二人きりの時にちょっとした音を立てただけでビックリされるもの。間違って本を絨毯の上に落としたとかだけで。かなり五感が鋭敏なのだ。
その上寝ていない。身体はどんなに寝なくても健康で病気もしなければ余程のことがなければ怪我もしないけれど、精神はリューク風に言うならキツい事になっているはず。
「ま、でも大人ですからね。あの方が言い出したんですから、お嬢様は待ってればいいですよ。つけあがらせちゃいけません」
「そういうものなの……?」
彼は皿の上のものを綺麗に平らげると手を合わせて、ごちそうさま、と言ってから再度真剣な目を向けてきた。
「そういうものです。……男は馬鹿なんですよ。どんなに賢くてもね。自分から謝りにこないってことは、絶対に、あり得ませんから。もちろん、謝りに来たら許すんでしょう?」
「そう、ね。うん。私、やっぱりあの方が大事だもの」
「なら大丈夫です。……すみません、お嬢様。もう一個ケーキ食べてもいいですか?」
「あら、ふふ、いいわよ。私は少し席をはずすわね」
彼と話してすっきりしたので、私は店のお手洗いを借りに立った。
「……って事らしいんで、あの方にご報告よろしくお願いしますよ」
なんて、リュークが言っているとも知らずに。
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