第11話 幼馴染とお茶をしました

「あ、リューク」


「ルーニアお嬢様?! あ、すまん、先戻っててくれ」


 ずっと王宮にいた私にも、幼馴染というものはいる。


 武勲を立てて男爵に叙勲されたサルパン男爵家の次男、リュークがそう。彼は今、どこかの貴族のお屋敷で騎士をしているようで、仲間を先に帰すと私の方に近づいてきた。


 子供の頃はジュード殿下とリュークはいい剣の仲間で、王宮で二人が訓練するのを私が眺めて、3人で談笑していたな。


 今日は護衛が2人いたけれど、帰りはリュークが送ってくれるという事で、私はお財布を渡されて護衛を帰した。


 鎧の紋章からして侯爵家の騎士のようで、その練度は我が家の護衛より上らしく、護衛も納得して任せてくれてよかった。実家に帰ってまで、友達といる時に護衛付きなんて嫌だし。


「いやぁ、お久しぶりです。相変わらずでん……あの方とは仲良くしてますか?」


「……うーん、家族みたい、って言われちゃった」


 だからちょっと拗ねて実家に帰ってるの、というと、リュークはひどく驚いた顔になって、ひとまず腰を落ち着けましょう、と、私をまた違うカフェに誘ってくれた。


 今日はカフェにいったり、冷たいものを飲んだりしたばかりだから、のんびり飲めるコーヒーと、ケーキを一つ注文した。


 リュークには、ここは払うわ、と言ったら遠慮なくサンドイッチとオムライス、デザートのケーキを注文されて、思わず笑ってしまった。


「騎士ってそんなに食べるの? おなかがはちきれてしまわない?」


「いやぁ、ちょうど昼食に戻るところだったんで。せっかくお嬢様の奢りですから、美味しいものをたらふくね」


「食べ過ぎたら午後から眠くなるのに。あなたいつも午後は眠そうだったじゃない、よくばるから」


「まぁそれは昔の話ですよ、今は全然、これで普通です。……で? で……あの方、ルーニアお嬢様に、家族みたい、なんて言ったんですか?」


 赤いニンジンのような髪をざんばらに毛先を切って、手の届かない長い部分は後ろで一括りにしているリュークは、何かを探るようにこちらを見てくる。


 私は友達に婚約破棄の話は伏せて、そうなの、と話してみることにした。


「ずっと一緒にいて、ちゃんと教育されてきて、常に人目があって……、私たち、世間の婚約者より距離があるみたいで」


「へぇ」


「私に可愛げが無いからかな、って、離れていろんな人の話を聞いたりみたりしてたら、思っちゃって」


「ふぅん」


「私が可愛げがあったら、家族だなんて言われなかったのかと思うと……私は好きだから、とても悔しくなっちゃったの」


 先程から食べながら話を聞いているリュークは、気のない返事ばかりする。


 少し怒って黙っていると、やっと私が怒ってることに気付いたのか、へらへらと笑って頭をかいた。


「いや、すみません。お嬢様の悩みがあまりに可愛らしくてね。なんせでん……あの方は、昔っからお嬢様しか見えてなかったんで。俺は騎士になるから剣をしてるけど、あの方にどうしてかって聞いたら『一生ルーニアを守るんだ』って。それにね、お嬢様は知らないと思うんで言っておきますけど……普通、どんな理由があろうと倦怠期も無く18年、連れ添うのは無理ですよ」


「倦怠期……?」


「そうです。相手の細かいところが嫌になったり、些細な事がイラついたり。なんかありました? そういうの」


 言われてみれば、子供の頃は喧嘩もあったけど、おもちゃや本の取り合い位で……5~6歳くらいからは、全然喧嘩をしたことがない。


「たぶん、ちょっとした倦怠期だと思いますよ。とはいえ、家族のように思う、はお嬢様は傷付くと思いますし、そこはあの方が謝るところですけどね。お嬢様もそんなに悩まなくていいと思いますよ、あの方、お嬢様以外の人じゃあもう耐えられないでしょうから」


「そうかしら? で……あの方は、誰にでも優しいわよ」


「そういうの外面ってんですよ。心から優しくしたい相手なんて、人間家族以外は一人二人が限界ですって。まして、あの重責を考えてみたら……、あのオシドリ夫婦がねぇ、珍しいもんだ、くらいです」


 やたら急に恥ずかしくなってきた。


 言葉が全てでは無い……そんなの、マナーで習ったことじゃない。殿下は今ちょっと違う文化に感化されてるだけ。私、家族のように、と言われたのはたしかに嫌だったけど……何か嫌いだとかいやだとか言われたわけじゃない。


 赤くなる顔を両手で冷やしているうちに、リュークの皿が半分以上無くなりかけている。


「そうだ、一つ聞きたいことがあったの」


「なんです?」


 きょとんとしているリュークに、私は首を傾げて質問を投げた。

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