第9話 婚約破棄から2日目、まぁまだ大丈夫でしょう

 昨日は教会に行って正解だった。いろんな視点から話を聞くことで、私の中にあった不平不満も少しは落ち着いた。


 今日も気持ちよく起きた私は、身支度して家族と朝食を摂り、何をしようか考えて、散歩に行く事にした。


 ずっと王宮暮らしだったから、城下街って歩いた事が無い。貴族街なら心配ないって言ったのだけど、護衛を付けられてしまった。


 そういえば、殿下はお忍びで街に出かけていたのよね。ずるいわ。私も出てみたかったのに。


 だから今のうちに散策して楽しんでおこうと思う。


 護衛には年若い騎士が二人、帯剣はしているけど私服姿でついてきてくれた。これで鎧だったら目立つけど、そうじゃないからヨシとしよう。


 そして、護衛を付けてもらって正解だった。


 私、王宮から出なかったから買い物とかした事がなかったし、お金を持つ、という事もすっかり頭から抜けていて……。


 カフェに入ってお会計となった時に「あ」って思った。護衛がスマートに済ませてくれたけれど、そこは両親が予め護衛にお金を持たせてくれていたみたい。


 護衛の二人にも両親にも感謝だわ。私、世間知らずなのね……。ウインドウショッピングをして、本屋にも行って、冷たい飲み物を3つ買って護衛2人と公園のベンチで休んでいたら(護衛は立ったままだったけど)、貴族同士のカップルがあちこちで休んでいて。


 女の子はみんな、うっとりした目で恋人を見て笑っていた。時々手が触れたりすると恥ずかしそうにしたり、仲がいい人は手を繋いでエスコートされていたり。


 思えば、私は小さな頃からジュード殿下といるのが当たり前で、こういう可愛らしさとは無縁だった。


 それに、『毎日一緒に寝てるのに』ちょっと手が触れたりしても照れるわけもないし……、少しジュード殿下の言っていた事がわかるかもしれない。


 大切だし愛情はある。好きだと思う。だけど、ジュード殿下にとってそれは、家族愛だと認識する物だったのだろうな。


 私はエスコートされるのは嬉しかったし、踊る時も楽しかった。ドキドキもした。殿下は……そうでも無かったんだろうか。


 一緒に寝ているといってもちょっとした部屋くらい広いベッドの上で、触れ合う訳でもなく、私は安寧の神の加護を使って殿下を寝かしつけて、隣で寝ていれば私の寝息と気配が殿下を休ませるというだけ。


 実際はキスもしていないし、そう頻繁に触れ合う訳でもない。そこはそれ、あまりにもしっかりとした教育のお陰で、私たちには一定の距離があった。


 きっとあのミナという子は、とても距離が近い子だったのだろう。


 私はずっと一緒にいても、同じベッドで寝ていても、殿下をときめかせる事が出来なかった。もっと、いえ、もう少しだけ、普通の女の子として、婚約者として可愛らしくできていれば違ったのかもしれない。


 私の反省点ばかりが見つかる。それは、殿下だって下町に出て可愛らしい子に腕でも握られたらときめくよね……。


 だって、殿下も他の女の子に、そういう事をされたことがないまま大人になったのだから。


 ……私にも悪いところがあった。うん。戻る時には、ちょっと頭を下げてちゃんと話し合いをしてくれたら許そう。お互い温室育ちなのは分かっている事だし。


 でも、ミナという子とキスまでしてたら、平手で打つくらいは許されるよね?

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