第8話 うまくいった(※ミナ視点)

 はぁ~、これでやっとあの労働の日々から解放されるのね。しんどかったぁ。


 オヤジもオカンも官僚が見張ってて仕事漬け、借金の返済のためにカツカツの生活。なんで貴族の私が平民に媚売って酒出したり料理出したりしなきゃいけないのよ! って本気で思ってた。


 愛想がない、なんて怒られるし。愛嬌なんて振り撒いたって仕方ないじゃん、平民と結婚する気ないし。


 そこにさぁ、もう明らかにお忍びですって金持ってる身なりのやつが現れたら、そりゃね~、愛想も振りまくし泣き落とすし可愛げがある女の子って顔するわ。落とせたら棚ぼただもーん。


 ドカタや冒険者みたいな臭い男に愛想振り撒いたってセクハラされて終わりでしょ。私ったらか弱くて可愛いからじこぼーえーしてただけだし。


 その点金と地位を持ってる男は違うわ。こっちから触らなきゃ触ってこないし。それにウブだしね。私が働いてたのは私のドレスとか家具とかまで借金の形に持ってかれるのが嫌だったから。


 しっかし、それがまさか『あの』王太子様だなんて思わないじゃん? 生まれた時から婚約者がいるのにさ、私が「もう、限界です……!」って抱きついたら鼻の下伸ばしちゃって。


 婚約者がどんな人かと思ったけど、愛想も無いしあれじゃ捨てられるわ。私の方がお姫様って感じだもん。


 それから先はあっという間。婚約破棄の話になってあの女は出て行ったし、私は今王宮に一室と豪華なドレスにメイドがあてがわれて、今は殿下とお茶をする支度中。


 お風呂と手荒れのケア、髪も香油がつけられて、綺麗なドレスに身を包んで……あぁもう実家のドレスなんて古臭くて着てらんないわ。売っちゃお。


 でも、来る時は私服で帰る時も私服、この事は誰にも言っちゃダメ、だなんて変なの。実はオヤジとオカンにはもう話したんだよね、王太子と婚約する~って。まだ内々の話だから言わないでねって釘刺したけど、あの喜びようったら。


 いい娘でしょ? 私。ってか、賭博で身を持ち崩すようなクズの娘に生まれたのが間違いなのよ。本来こうあるべきだった所におさまっただけ。


 今日はジュード殿下にどんなお話をしよっかな~。


「できました」


「あら、ありがとうございます。わぁ、とても素敵ですね」


 考えていた所にヘアメイクが終わったとメイドが声を掛けてくる。うんうん、元がいいから最新のドレスにちゃんとしたヘアメイクならこんくらいになって当たり前。素敵素敵、私がね。


 せっかく二人きりでお茶するし、私も二人きりの時はジェイって愛称で呼んでもいいですか? なんて恥ずかしそうに切り出してみちゃおっかな?


 陛下の言っていた「認めさせてみろ」ってつまりはそういう事でしょ。眠れない、ってのはよくわからなかったけど。


「身支度、ありがとうございます。殿下が待っていらっしゃるので行きますね……!」


 ぺこっ! と頭を下げて、私は部屋を出た。なんだかメイドに驚かれた顔をしてたけど、下々の者にもお礼を忘れないなんて、って事よね? お待ちください、とか聞こえた気がしたけど時間は無駄にしたくないのよ。バタン、と扉を閉めて私は歩き出した。


 さーて、殿下はどこにいるのかな?

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