第6話 教会にお祈りを

 翌朝、スッキリと目覚めた私は自宅で買い揃えられていたドレスからあまり派手で無いものを選び、メイドと共に身支度にとりかかった。自室なのに慣れない、という感覚がある。


 初めて袖を通すのにサイズが合ってるのは、定期的に会っている時に、王宮で採寸サイズを聞いて家でも作ってくれていたからだとか。


 やっぱり実家っていいなぁ、と思いながら家族で朝食を食べ、少し談笑してから、貴族街の教会にでかけた。歩いても行けるところだからと、馬車は断った。


 全てが始まった場所であり、すごく久しぶりに来た場所。私は入り口前に立って、立派な聖堂をしばらくじっと見上げていた。


 記憶には無いけれど、確かにここで私はジュード殿下と出会い、婚約が決まり、王宮で暮らす事になった。なんとなく……婚約破棄を言われてささくれた心を癒すためか、結局自分は本当の所どう思っているのか……そんな事を考えるのに、ちゃんと自分の足で歩ける今ここに来たかったのだ。


 重たい扉を押して中に入る。ガランとして、中が吹き抜けになっている大聖堂。正面には何体かの神の像があり、説教をするための台がある。右手にささやかな懺悔室があるが、今日用があるのは神像にだ。


 私は安寧の神の神像の前に跪くと、手を合わせて祈りを捧げた。体が温かい光に包まれて、神の加護を感じる。


 この世界には神の加護を持って生まれてくる人がいる。加護を持って生まれてきた人から、神が発見される、という方が正しいのかもしれない。


 何かしら特殊な力を持つ人が生まれて、その力を元に神の像を作ると、こうして神の恩恵を受けている人間は像に祈る事で体が反応するのだ。


 そう多くもないので、あまり人前でやることでもないのだけれど……赤子の時は、切羽詰まっていた。私も、ジュード殿下も。


「おや、もしかしてルーニア様ですか? 随分大きくなられましたね」


「司祭様。ご無沙汰しております、……というのもなんだか変な感じですわ。私は司祭様を認識してお話するのは初めてですもの」


「はは、それもそうですね。あの日のことはよく覚えています。よければ、せっかくですし話を聞いて行かれますか?」


 柔和な初老の司祭様は、私の事情は何も聞かずに、私に椅子を勧めてくれた。


 両親や陛下からは話を聞いているが、司祭様とこうして話すのは初めてだし、どうせなら神にお仕えしている方から改めて聞くのもいいかもしれない。


 私と司祭様は長椅子に並んで座ると、立ち並ぶ神々の像を眺めながらぼんやりと話をすることにした。


「では、お言葉に甘えてお願いします」


「はい。ふふ……、あの時は本当に大変な騒ぎになりました……」


 そうして、司祭様の長いような短いようなお話がゆっくりと始まった。

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