第1章 第18話

ちょっとだけ、拓哉君を好きじゃなくなったから……。

バレンタインでもチョコを渡さない。

本当は渡したい。

だって、まだ好きだもん。

勉強を教えてくれた時に、


「沙希ちゃん、頑張りやさんだね。」


って言ってくれたから、宿題を頑張ってる。

あの時にちょこっと微笑んでくれたのが嬉しかった。

なのに最近、微笑んでくれないんだもん。


「沙希、拓哉君にチョコは?」


「あげない。」


「え?」


親が驚いている。

そりゃ、そうだよね。

あれだけ拓哉君拓哉君って言ってたんだもん。


「あっ、パパにはあげるよ?」


「そ、そうなんだ?」


ママが苦笑いしている。

パパにあげないと落ち込んじゃうから。


「チョコ買ってくる。」


小学生だもん、一人で買い物に行ける!

前はママが危ないからって行かせてくれなかったけど。

パパにあげるチョコを買いに行った帰りに、拓哉君に会った。


「あっ、沙希ちゃん……。」


拓哉君が気まずそう。


「す……凄い荷物だね。」


「うん……。」


沢山チョコを貰ったみたい。


「じゃあ、私、急いでるから。」


「うん。

気を付けて帰ってね。」


拓哉君はちょっぴり寂しそうに見えた。

あんなに沢山のチョコを貰ってるのに。


「あの……沙希ちゃん!」


「ん?」


「ごめん、ちょっと荷物持つの手伝ってくれない?

でも急いでるんだっけ?」


「うーん。

しょうがないな。」


「ごめんね。

ありがとう。」


私は拓哉君の荷物を持つのを手伝った。

でも特に話さない。


「じゃあ、帰るね。」


拓哉君の家に着いて、すぐ帰ろうとした。


「ちょっと待ってて。」


拓哉君がそう言って、家の中に入って行った。

少し経ってから、拓哉君が戻って来た。


「沙希ちゃん。」


「ん?」


「この前、ごめんね。」


「……。」


「俺、沙希ちゃんを好きだよ。

でもそれは、パパやママや姉ちゃんの事が好きなのと同じ。

沙希ちゃんも家族みたいだからって思ってる。」


「……。」


「沙希ちゃんに嫌われたくない。

ずっと、どうやって話そうかって思ってた。」


「……。」


「これね、沙希ちゃんの好きなチョコだよね?

バレンタインの売場にあって、恥ずかしいけど買って来た。」


「え?」


「沙希ちゃん、ずっとイトコとして、仲良くしてくれない?」


拓哉君が差し出してくれたチョコは私の大好きなチョコで。

バレンタイン用に可愛くラッピングされていた。


「あの……。」


「ん?」


「嫌いじゃないからね。

ちょっと怒ってただけだし。」


「ごめん、怒らせて!」


「うん。

これ、ありがとう。」


私は初めてバレンタインのチョコを貰った。

大好きな人から。


「良かった……。」


拓哉君が泣きそうな顔して笑うから、私も泣きそうな顔して笑った。

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