第1章 第17話

結局、私の怪我の事は、


「おじちゃん、おばちゃん、本当にごめんなさい。」


拓哉君が拓哉君のパパと謝りに来た。

私の大好きなケーキを持って来てくれた。


「沙希は気にしてないわよ。」


「うん、分かってる。

でも、おじちゃんとおばちゃん、気にならない?」


「気になるわよ。

でも、沙希は気にするなって言ってる。

だから、気にするのやめようと思うの。」


「そうなの?」


拓哉君がキョトンとしている。


「ちゃんと拓哉君も皆に話してくれたんでしょ?」


「うん。

俺の大事なイトコだから、何かしたら許さないって。」


「皆は何か言ってた?」


「黙ってた。

後から友達が、拓哉が怒るなんて初めてじゃないか?って言ってた。

俺、あんまり怒らないしなぁ……。」


「そうだね。

怒らないね。」


「だよね?

俺もよく分からないけど、いじめたり悪口を言うの嫌いなんだ。」


「そうなんだね。」


ママが拓哉君と真剣に話してた。

だから私は黙って聞いてた。


「拓哉君は、いじめたり悪口を言うような子にならないでね。」


「うん。

なりたくないし。」


「そうだね。

これからも沙希を宜しくね。」


「うん。」


拓哉君はいつもみたいに笑顔を見せてくれなかった。

この時を境にあまり微笑まなくなった。

前は誰にでもニコニコ優しい笑顔だったのに。

それって、私のせい?

そう思っちゃうじゃん。


「最近、拓哉君、イメチェン?」


「クールだよね。」


「それでもカッコいいよね。」


そんな話も聞こえて来た。

相変わらずモテる。

愛想を振りまくわけじゃないけど、やっぱり優しい。


「拓哉君、宿題教えてくれる?」


「いいよ。」


たまに宿題を教えてもらう。

拓哉君に教えてもらわなくても分かるんだけど。

だって、一緒にいたいんだもん。

遊びたいって言うと、サッカー無い日ならいいよって言われちゃうし。


「最近拓哉君元気ないよね?」


ママが言ってる。

皆が心配している。


「ねぇ、拓哉君。

皆が元気無いねって言ってるよ?」


思いきって拓哉君に言ってみた。


「そうかな?

普通だよ?」


「でも皆と仲良くニコニコしてたじゃん?

そういうの、もうしないの?」


「うーん。

何かね、女子と仲良くすると、良い事が無いんだよね?」


「私も女子だよ?」


「そうだね。

沙希ちゃんは特別だよ。

だって、イトコじゃん?」


「イトコだよ。

でも女子だよ?」


「分かってるよ。

可愛いもんね。」


可愛いと言われて嬉しい。

いつもみたいに頭を撫でてくれる。

そして、久々に微笑んでくれたけど。

やっぱり違う。


「拓哉君、私ね、拓哉君の事が好きだよ。」


「知ってるよ。」


「お嫁さんになりたいよ。」


「ありがとう。

まだ子供だから、そういう事、よく分からないんだ。」


「それって、ごめんなさいって言いたいんだよね?」


「え?」


「ハッキリ言わないのは悲しいよ。」


「ごめん。

でも本当に分からないんだ。

だから、そんな顔しないで。」


多分、私は泣きそうな顔をしてる。

ちょっとだけ、拓哉君を好きじゃなくなった。





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