第1章 第16話

「沙希ちゃん、ごめんね。」


保健室で拓哉君が謝ってる。


「ううん。

平気。」


「でも血が出てる……。

おじちゃんと、おばちゃんに……謝らなきゃ。」


「いいよ、謝らなくて。」


「でも……。」


「いいよ、もう。」


拓哉君は悪くない。

でも分かったよ。

拓哉君は皆に好かれていて、特別な人なんて作っちゃダメだって。

イトコが特別なのもダメだって。

でも……それでも好きだよ。


「俺、ちゃんと言うから。

沙希ちゃんはイトコだから、もしまた何かしたら俺が許さないって!」


「……。」


「ちゃんと俺が沙希ちゃんを守るからね。」


「拓哉君……。」


守るって言われて嬉しいはずなのに、それは好きだからとかじゃない。

イトコだから……だよね。

私はイトコじゃなくて、お嫁さんがいいのに。

でもそれを言ったら拓哉君が困るんだと思う。

申し訳無さそうな顔して、『まだ子供だから、お嫁さんとか分からない』って言いそう。


「沙希ちゃん、痛い?

大丈夫?」


遥ちゃんが心配している。


「平気だよ。」


「そっか。」


遥ちゃんが泣きそうにしている。


「遥ちゃん、ここまで私の靴を持って来ちゃったの?」


「あっ、本当だ!

下駄箱に置いて来る!」


遥ちゃんが慌てて、保健室を出ていく。

遥ちゃんと入れ違いで保健室の先生が来た。


「消毒しておこうね。」


「うぅ……。」


「ちょっと、しみるね。

我慢しようね。」


「……。」


ちょっとじゃないよ!

めっちゃ痛い!

ヤダヤダヤダヤダ!

痛くて放心状態の私のそばで先生と拓哉君が何か話してる。

少し会話が聞こえた。


「佐藤君、大丈夫?」


「はい……。

俺、やっぱり女子と仲良くしない方がいいのかな?」


「そんな事ないよ。」


「だって、前にもこういう事があったから。」


「そうだね。

でも、あの子が不登校になったのは、佐藤君のせいじゃないのよ?」


「俺が早く気付いてあげられなかったから。」


「だから、それは佐藤君のせいじゃないからいいのよ?」


「だけど……。」


「彼女言ってたよ。

佐藤君が気付いて、先生に言ってくれたから、本音が言えたって。」


「……。」


「気にしなくていいのよ。」


何の事か分からなかった。

後で分かったんだけど、拓哉君はいつも一人ぼっちでいるからって、ある女子に声をかけていた。

でも、その女子が不登校になってしまった。

本当は前々からクラスの人にからかわれていて、傷ついてたせいみたいなんだけど。

からかわれているのを拓哉君が気付いて先生に相談したらしい。

不登校になった時に、『バカでブスで拓哉君に話しかけてもらうとか目障りだから来なくなって良かった』って女子の数人が言ってるのを拓哉君が聞いてしまった。

だから、拓哉君は自分のせいって気にしている。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る