第1章 第15話

小学校に入学して、初めて拓哉君を見る事が出来る行事がやって来た。

それは……運動会!


「拓哉君、リレーの選手なんだって。」


ママが言ってた。

走るのが速いんだって。


「運動出来て、頭が良くて、見た目も良い。

そりゃ、モテるよね。」


そうママが言ってたけど、モテなくていいの。

私だけの拓哉君でいて欲しいの。


「ねぇ、沙希ちゃん。

拓哉君はリレーなの?」


「うん。」


「沙希ちゃんもリレーでしょ?」


「うん。」


実は私も足が速いらしい。

いつも遥ちゃんを置いて行きそうになるから、思いっきり走らなかったんだけど、


「思いっきり走りなさい。」


って、ママが言ってた。

幼稚園の運動会も思いっきり走らなかったから、ママが気付いたみたい。


「あっ、拓哉君!」


「本当だ。」


「めっちゃ速いじゃん!」


「速い速い!」


思わず遥ちゃんと騒いじゃった。

騒ぎたい位、めっちゃ速い!

私はまだまだ遅いなぁって思ってた。

私がリレーで走った後に、たまたま拓哉君とすれ違った。


「あっ、沙希ちゃん。

見てたよ、リレー。」


「遅かったでしょ……。」


「遅くないよ。

めっちゃ速いじゃん!

カッコいいよ!」


「え?」


「自信持ちなよ。」


「……。」


「イトコが走るのが速いなって、皆に言われたよ。

何か照れるな。」


「イトコ?」


「俺と沙希ちゃん、イトコじゃん?」


「あぁ……そうかな?」


「うん。

あと可愛いって。」


「ふーん。」


皆が可愛いって言ったとか、どうでもいい。

拓哉君から可愛いって言われたいんだよ。


「拓哉君は私を可愛いって思うの?」


「勿論だよ!」


拓哉君が照れくさそうに微笑んで、私の頭を撫でてくれた。

嬉しい……。

でも、この後、事件が起きた。

拓哉君と別れてからの事。


「ちょっと!」


知らない女子が五人で私を囲む。


「貴女、まだ知らないんでしょうけど、拓哉君は皆の物よ。」


「え?」


「自分の物みたいな顔しないでよ。」


「はい?」


「はい?じゃないでしょ?」


拓哉君は私の物って思ってないよ。

でも皆の物でも無い。


「うるさいんだけど。」


「はぁ?!」


うるさいって言ってやった。

でも怒って私をドンって突き飛ばして来た。


「やめて!」


突き飛ばした上に蹴ろうとした女子を誰かが突き飛ばす。


「遥ちゃん……。」


「沙希ちゃん、大丈夫?」


遥ちゃんが助けに来てくれた。

痛いし、怖いし、泣きそう。

でも絶対泣かない!


「どういう事だよ?!」


男子の声がする。

この声は……。

拓哉君の友達だ!


「男子には関係無いでしょ!」


「一年生に五人がかりって、ダサいだろ。」


「はぁ?!」


拓哉君の友達が女子と言い合っている。


「沙希ちゃん!」


騒ぎを聞きつけた拓哉君が走って来た。


「沙希ちゃん、誰にやられた?」


「……。」


「怪我してるじゃん。

保健室行こう。

俺、おんぶするから。」


「でも……あの人達、拓哉君が皆の物って。」


「え?

俺、誰かの物になったつもり無いけど?」


「……。」


「心配しなくていいよ。

行こう。」


拓哉君が私をおんぶしてくれた。

その時に脱げた靴を遥ちゃんが持って、ついて来てくれた。



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