第1章 第13話

幼稚園卒園。

卒園式の時に、私の所に義郎君と義郎君のママが来た。


「沙希ちゃん、何か義郎が迷惑かけたみたいでごめんね。」


義郎君のママがそう言った。

たまたま私のママがそばにいて、


「いいんですよ。」


そう言った。

ママ同士が話し始める。


「うち、転勤で関西に行くんですよ。」


「え?

大阪とか?」


「そうなんです。

大阪なんて行った事無いし、関東で育った義郎が大丈夫か心配で。」


「そうね。

でも慣れるわよ。」


「そうですかね?」


「でも大人の方が大変かも?」


「うーん、不安です。」


「何かあったら連絡ちょうだい。

愚痴くらい聞くから。」


「佐藤さん……。」


義郎君のママが泣いている。


「はいっ!」


私は義郎君のママに持ってたハンカチを渡した。

大人が泣くのは多分大変だから。


「沙希ちゃん……ありがとう。

こんなふうに優しくしてくれるから、義郎は沙希ちゃんが大好きなのね。」


よく分からない。

でも義郎君のママも優しいよ。


「沙希ちゃん。」


義郎君が話しかけて来た。

私は返事をしなかった。


「ごめんなさい。」


「……。」


「もう引っ越しだから、沙希ちゃんに会えないんだって。」


「え?」


「大阪って所に行くんだ。」


「大阪?」


「うん。

新幹線で行くんだって。」


「新幹線?」


「うん。

速いんだって。」


「ふーん。」


「だから、会えないから。

元気でいてね。」


「うん……。」


会えないって言われたら何か寂しい。


「拓哉君よりカッコ良くなったら、また会いに来ていい?」


「え?」


「やっぱり沙希ちゃん好きだから。」


「……。」


何も言葉を返せなかった。

もう会えないかも?なのに、泣かせたくない。


「義郎君ありがとうね。」


私のママが義郎君に言った。


「沙希ちゃんの好きなイケメンになって、帰って来たいです。」


「アハハ、そうね。

いつでも遊びに来てね。」


私の事を皆が面食いと言う。

イケメン好きだからなんだって。


「最後に記念撮影します!」


先生の声で皆が集まる。

もう会えない人が沢山いるって、よく分かってない。

一生会えないかも?なのに。


「沙希ちゃん、小学校同じクラスがいいね。」


「うん。」


遥ちゃんは同じ小学校。

だからお別れって感じじゃない。

一緒のクラスがいいな。


「沙希ちゃん、ランドセル何色?」


「ピンク。」


「いいね、可愛いじゃん!」


「遥ちゃんは?」


「私は赤。

無難だって。」


「無難って?」


「知らない。」


知らないのにいいの?

でも沙希ちゃんがいいなら、それでいいね。

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