第1章 第12話
義郎君が私と遥ちゃんを避けたまま、日々を過ごす。
本当の事を言うけど、何も変わらないに近い。
露骨に避けられて、目障りという感じ。
この気持ちを幼稚園児が言葉にすると、
「あぁ…もう、そばに来ないでよ!」
って、なってしまって、また義郎君が泣く。
面倒くさすぎて、もう絶対喋らないと思った。
そんなある日、
「今日は皆に、自分の好きなものを書いてもらいます。」
「せんせーい!
好きな人でもいい?」
「いいよ!」
卒園製作というヤツで、自分の好きなものっていうテーマで絵を描かされた。
好きな人でもいいらしい。
「沙希ちゃん、どうする?」
「拓哉君は描けないから、イチゴにする!」
「イチゴって、点々も描くの?」
「点々?」
「んー、つぶつぶ?」
「ブツブツ?」
「アハハ!」
よく分からないけど、『つぶつぶ』と『ブツブツ』を連呼して、ウケていた。
「つぶつぶ、何色だっけ?」
「うーん……白?」
「ん?
黒じゃないっけ?」
「あれ?」
「うーん?」
「どっちでもいいか?」
「いいよ!」
私は、イチゴを描く。
遥ちゃんは、おばあちゃん家の猫。
義郎君は……。
「アイツ、人、描いてるよ?」
「え?」
「でも沙希ちゃんじゃないか。
似てないもん。」
「別にいいよ、どうでもいい!」
どうでも良かった。
でも……。
「何、書いてんの?」
「……。」
「女じゃん?」
「……。」
「もしかして、沙希ちゃん?」
「違う!」
「え?
沙希ちゃん好きなんだろ?」
「好きじゃない!」
義郎君がまた泣いた。
結局、女っぽい人間を描いてたらしいけど、それが何なのか分からない。
「沙希ちゃん、こんなじゃないでしょ?」
「うーん、髪、もっと長いか?」
「そうだよ!」
「じゃあ、誰よ?」
「知らない!」
「もしかして、浮気か?」
「浮気って何?」
「うちの隣のおじさん、浮気して不倫して離婚するんだって。」
「何?
色んな事したって事?」
「分からない。」
義郎君の浮気疑惑が隣のおじさんの離婚ネタになってしまう。
幼稚園児は意味も分からず、噂話を広げている。
「せんせーい!」
「なーに?」
「義郎君、離婚?」
「え?」
いきなりの質問に先生は困惑していた。
園児も意味が分かっていないんだけど。
その噂が親に伝わる頃には、
「義郎君、離婚だって。」
という話になって、
「え?
義郎君のおうち、離婚?」
なんて勝手に解釈されて、義郎君の両親は円満なのに変な噂をされる。
勿論、デマなので離婚しないのだけど。
このデマで、
「パパとママ、どっちについて行くの?」
なんて言われた義郎君はショックで、幼稚園を休んでしまった。
かわいそうだけど、私を無視するから、頭をヨシヨシってしてあげない!って決めた。
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