第1章 第2話
私が3歳の時にお兄ちゃんは7歳だった。
「沙希ちゃん、七五三なんだね。」
「ちちごさん?(七五三?)」
「ばあちゃんが言ってた。
沙希ちゃんの可愛い着物を買ったって。」
「着物?
あれの事?」
「そうそう。
あれ、沙希ちゃんに似合いそう!」
「ん?
似合う?
可愛い?」
「うん、元々可愛いけどね。」
「フフッ。」
可愛いって言葉は分かる。
皆がよくニコニコしながら言う言葉。
嬉しい事。
「お兄ちゃん。」
「なぁに?」
「お兄ちゃん、名前は?」
「え?」
「私は
幼稚園に入る前に名前と年齢を覚えさせられたばかりで。
皆に名前や年齢を聞いていたらしい。
「俺は
「ふーん。
何歳?」
「7歳だよ。」
「ふーん。
7歳って何する?」
「え?
小学校行くとか?」
「幼稚園に行かない?」
「幼稚園の次に小学校だよ。
ランドセル分かる?
お兄ちゃんが黒いのこうやって背負って歩いてるの見てたよね?」
「あ!
何か分かる。
お菓子入れる?」
「お菓子はダメだよ。」
今となっては恥ずかしいくらい、どこに行くにもお菓子お菓子。
ご飯よりもお菓子お菓子って、お菓子ばかり欲しがる子供だった。
幼稚園に行くのにお菓子を持って行けないと知った時は、
「幼稚園に行かない!」
って泣きながら大暴れしたらしい。
お菓子を持たずに幼稚園に行くのを納得したのは、お兄ちゃんが上手く説得してくれたから。
「お菓子持って行くなんてダメだよ。
沙希ちゃん、俺と同じ小学校行くでしょ?」
「小学校行きたい!」
「ちゃんと小学校に入る練習を幼稚園でするんだよ。
その為にお菓子は我慢だよ。
パパとママが良いって言った時だけ食べるんだよ。」
「でも……。」
「俺は言うこと聞かない子は嫌いだよ。」
「ヤダヤダヤダヤダ、嫌いなのヤダ。」
「言うこと聞いてたら、ずっと好きだよ。」
「ずっと?」
「うん、ずっと。」
ずっと。
その言葉を信じた。
ずっとずっとずーっと好きでいて欲しい。
「幼稚園行ったら何したい?」
「小学校行きたい。」
「いや、そうじゃなくて。」
「ん?」
「楽しみな事は無いの?」
「お菓子!」
「お菓子は幼稚園で食べないよ。
お弁当じゃない?」
「お弁当?」
「うん。
俺が行ってた幼稚園は美味しい弁当だった。」
「ふーん。」
「甘い玉子焼きがお菓子みたいで美味しかったよ!」
「え?
お菓子?」
「お菓子みたいなだけ。
でも本当に美味しかったよ。
沙希ちゃん、俺と同じ幼稚園だから、多分食べられるよ。」
「ふーん。」
あまり興味のなかったお弁当。
あまり興味のなかった玉子焼き。
実は凄く美味しかった。
お寿司の玉子みたいで嬉しかった。
何より、その事をお兄ちゃんに報告する時が嬉しかった。
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