第45話 アスレチック・チャレンジ
現夢境予報は“荒れ”。でもとてもそうとは思えないくらい、街は普段通りだった。
買い物を終えて外に出てきた私たちは、ショッピングモールの目の前にある公園にやって来ていた。暁兄妹がアスレチックに再び挑戦するとのことで、せっかくだから見学していこうかという話になったのだ。
時刻はそろそろ2時になろうかというところ。公園には赤ちゃん連れのお母さんたちが集まって談笑していたり、小学生らしき子供たちが遊具で賑やかに遊んでいる。
そんな中で、私たちはなんとか3人掛けのベンチを確保した。そしてその目の前には、例のアスレチックが鎮座……いや、もうこれは聳え立っているという表現の方が相応しいな。本当に家くらいありそうだ。
「近くで見るとホントにでっかいねこれ……」
屈伸。
「ねー。事前の調査した時に1回見た私でさえデカっ!?……って思うもん」
伸脚。
「……てか、暁兄妹マジで何者?百歩譲ってあのアスレチックをタイムアタックするのはいいとしても、つり橋で組み手みたいなことまでする必要はないと思うんだけどなー……」
上体反らし、腕のストレッチ。
「あと、こよいっちはさっきから何をしてるの?」
「何って、準備運動だけど?」
それ以外の何に見えるというのだ。
「一応聞くけど、ふつーに挑戦するんだよね?」
「最近思うんだ。身のこなしも鍛えた方が良いってさ」
そうすればきっと、あの世界に拐われた時に役に立つから……というのは建前。数々の部活に助っ人参戦して来た身としては、兄妹の言っていたタイムアタックという単語が魅力的に聞こえてしまうのだ。
「いやいや流石のこよいっちも暁兄妹の真似は無茶だってあああ……」
綺沙良の制止(と、その隣で一心不乱にペンを動かす鳴衣)を振り切り、私はアスレチックの入り口に突撃した。まずは縄ばしごによる垂直の壁登りからだ。そこから内部に突入して、先に入って行った暁兄妹を追う。
流石に公共のアスレチックだ。某番組程1つ1つの障害の難度は高くない。ウレタンマットも過剰なくらい敷き詰められているので子供も安心して挑戦できるだろう。
ただ、暁兄妹のようにタイムアタックしようとすると話は別だ。例えばふらふら揺れるネットのような道は確実に私の歩みを遅らせ、トンネルのような通路は子どもならまだしも高校生が立って進むのは到底不可能だった。他にも小規模なボルダリングの壁やら雲梯やらが私の勢いと体力を確実に削ぎに来る。
それでも、
「よし追い付いた……!」
暁兄妹がゴール前のつり橋の上で何やら模擬格闘戦を繰り広げていたおかげで、何とか食らい付くことは出来た。
「ラストスパートくらいは、参加してもいいよね、2人とも?」
闖入者のそんな問いかけに、暁兄妹はファイティングポーズを取った状態で目をぱちくりとさせていたが、すぐに構えを解いてこちらに戻って来た。
「……今回はタイムアタックという訳ではなかったんだが」
「どちらかというと実戦を想定した模擬戦込みの踏破訓練でして……」
……確かに何でタイムアタックの途中で格闘なんかしてるんだとは思ったけども。
「ま、まあ細かいことは気にしない!」
2人がつり橋の手前をスタート位置に定めてくれたので、私はそう言いながら加わろうと踏み出す。
――その瞬間、視界がブレた。
(あ……れ……?)
まぶたが重い。体の動作も覚束なくなり、思わずその場に膝を突く。
「階……?おい、―ざはし――!?」
意識が急速に落ちていく。咄嗟に暁くんが抱き留めてくれたらしいことを辛うじて理解したが、私が自分を保てたのはそこまでだった。
(気を……付け……)
その言葉を唇が紡げたかも分からぬまま、私の意識は陽の当たる公園から流されて――
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