第2夜 白昼夢 ~Day Dream~
第29話 暁兄妹の朝
〈side:暁日人〉
6時に起床。トレーニングウェアに着替えて近所を軽く3キロ程走り、帰宅後に庭で日向と
その後は日向へ先にシャワーを使わせ俺はトレーニングウェアのままキッチンへ。2人分の弁当作りに取り掛かる。
制服に着替えた日向が洗面所から出てきた所でバトンタッチし、今度は俺が汗を流しに向かう。トレーニングウェアを洗濯機に放り込み、最短の設定で回転させる。
用意していた制服に袖を通してリビングに戻ると、丁度朝食が出来上がった所だった。白飯にベーコンエッグ、わかめの味噌汁など定番所がテーブルに並んでいる。
「「いただきます」」
揃って手を合わせ、俺たちは食事をし始めた。朝食を終える頃には洗濯機も止まるので、その後は前日の洗濯物と合わせて登校前に干しに行く。転校する前から変わらない、俺たちのモーニングルーティーンだった。
……勿論、これは現夢境に行かなかった、あるいは早く戦闘が終わった場合の話ではある。帰宅した時間帯如何では、トレーニング部分をまるまる睡眠時間に当てることもままあった。目安は天辺を回るか否かだ。
『先月終わりから◯◯県春音市で発生していた連続失踪事件ですが――』
ふと、テレビから聞こえて来たアナウンサーの声で、食卓に緊張が走った。俺も日向もピクリとして箸を止める。
『――現在の所、新たな被害者は報告されていません』
揃って深く……深く、安堵の息を吐く。現夢境から帰って来た翌朝のニュースは本当心臓に悪い。行方不明者が増えたということは、つまり“俺たちが守れなかった人”が増えたということだからだ。
「慣れないよね。いつまで経っても……」
「そうだな……」
多少緊張が解け、日向がトロリとした半熟の黄身を再び口に運ぶ。俺もそれに習い、ベーコンにかじりついた。
――23人。
……俺たちが活動を始めた後で、助け出せなかった人の数だ。2人での活動である以上どうしても限界という物があり、指の隙間からこぼれ落ちてしまう人々は出てしまう。逐一己の無力さを嘆くような時期はとうに過ぎたが、それでもやりきれなさは拭えない。
これ以上この数字を増やすことがないように、と朝のニュースを聞きながら決意を新たにする。これもまた、俺たちの大切な日課だった。
だからこそ、対策が可能なら目一杯しておきたい。
「
「うん。ばっちり。危険を先に伝えられる先輩だけでも、確実に守らなきゃいけないもんね」
現夢境で出会った俺のクラスメイトは、どういうわけか“あの世界での記憶を忘れない”ことを筆頭に俺たちの常識を覆す能力をいくつも持っていた。性質上事前に対策を取ることが出来ない他の人々とは違い、彼女だけは前もって備えておくことが出来る。これは大きい。
(しかし……あいつは何者なんだろうな?)
一介の女子高生にしては、階は現夢境に適応し過ぎているような気がする。あの世界で行動するために様々な調整を施した俺たちならばいざしらず、天然モノであれだけの特異性を発揮するとは尋常ではない。
(ちょっと、探りを入れてみるか)
少し薄味の味噌汁をすすりながら、俺はそう考えた。
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