第26話 円騎狼〈ラウンズ・ウルフ〉
重力操作も交えて全速力で突っ込んでいった日向の斬撃を、金狼が咥えた剣で真っ向から迎撃する。刃と刃の接触点から激しく火花が散り、力負けした日向が大きくノックバックさせられた。その隙を逃さず、金狼は体勢を崩した日向へ左前脚を振りかぶって追撃を敢行。脚を覆う鎧が変形して収まっていた浮遊剣の刃が露出し、唸りを上げて日向に迫る。
「させるかッ」
あらかじめ外側から大きく回り込むように距離を詰めていた俺は寸前で滑り込み、鎌の刃で狼の脚をかち上げた。配下の狼たちとはレベルの違う膂力に、重力操作を最大限行使しながら何とか拮抗する。日向が力負けするのも納得だ。
「すまぬ、兄上!」
体勢を建て直した日向が金狼の顎下から鎌を切り上げる。体毛から発せられる光を照り返す三日月状の刃が狼の首筋に食い込み、日向はそのまま渾身の力を込めて金狼の喉笛を搔き切った。巨体が大きく仰け反り、俺は圧力から解放される。
確実にダメージにはなった。だが、
しかし、金狼の攻撃はそれで終わりではなかった。
奴の身体が路面を打ち砕いた瞬間、背中に懸架されていた3本の浮遊剣がミサイルの噴射煙のような光の尾を引きながら射出されたのだ。俺たちがボディプレス後の隙を突くべく一息で金狼へと肉薄できる位置に居たこともあり、浮遊剣はあっという間に眼前へと迫って来る。
俺は先頭の1本を身を捻ってかわし、2本目は鎌の刃で上方へ受け流す。視界の端で、日向も自分を狙った1本を側転で回避していた。
これがただのミサイルであればこれで終わりだったのだが……
「くっ……!」
回避した浮遊剣は、俺たちの後方で大きく弧を描くと、再び金色の光を纏って加速しながら突撃して来る。今回は距離があったため初撃よりは余裕を持って避けられたが、金狼には見事に攻撃のチャンスを潰されてしまった。
金狼が高く跳躍しての飛びかかりを仕掛けて来るのを見て、俺は下をくぐるような前方ダッシュで着地点から離れ、着地際を攻撃するべく反転してファンタズマを構える。
が、
着地狩りを狙った俺が目にしたのは、鼻先スレスレを掠めていく浮遊剣の鋭利な切っ先だった。金狼はアスファルトを踏み砕くと同時に、浮遊剣が装着された尾を横薙ぎに振るっていたのだ。あのまま飛び出していたら首を飛ばされていたところだっただろう。
「おのれ、徹底的に隙を潰して来るな……」
狩りゲーでは嫌われるタイプだ……と、後退して来た妹が歯噛みする。日向も着地際を狙ったが、脇腹の装甲に納まっていた浮遊剣が突然真横に振るわれたことで反撃の機会を逸したらしい。
「攻撃への対処はしやすいが……付け入る隙がないな」
騎士たちが存命だった頃のような、浮遊剣による視界外からの多角攻撃が無くなっているため立ち回り自体は楽になったが、攻撃動作後の隙をカバーするような行動が目立ち、こちらから攻めることは難しくなっていた。
「しばらく観察に徹しよう。奴も全能ではないはずだ」
「全面的に同意だ。攻撃出来ねば終わらぬからな……」
再び飛びかかって来た金狼を散開してやり過ごし、俺は側面から攻撃を試みる。今回は命中させることが目的ではないため、踏み込みは浅い。代わりに、目の前で脇腹の装甲が変形し、浮遊剣の刃が横薙ぎに振るわれる所をしっかりと確認する。あくまでも牽制用なのか、可動域は広くなさそうだった。
同様に、日向と協力して隙潰し行動の際の各部の可動域を確認し、情報をすり合わせて行く。脚の剣の軌跡、後方を薙ぎ払う尾の加害範囲、各部鎧の変形するタイミングなどを見切り、着実に金狼を追い詰める手筈を整えて行く。
金狼が後方宙返りから背後の俺に向けて豪快に尻尾を振り下ろして来た。跳躍してそれをかわすと、眼下で尾に装着された浮遊剣がアスファルトを食い破り、土の地面を露出させた。俺はすかさず、ファンタズマを振りかぶりながら重力操作で金狼の背中へダイブする。この後方尻尾叩きつけ攻撃の隙潰しは四肢の剣をワイパーのように縦方向へ一薙ぎするだけということを既に確認していた。背部上空への対抗手段はない。
鎌の刃が金狼の背中を抉り、パッ、と輝く毛束が舞い散る。金狼は怒りの唸り声をあげながら、四肢と脇腹の剣を展開して1回転し、周囲を薙ぎ払いつつ俺を振り落とそうとした。
(まだ……落とされてやる訳にはいかない)
重力で自身を金狼の背中に押さえ込み、遠心力に耐えた俺は再び鎌の切っ先を背中に振り下ろした。そしてそのまま、傷口へ向けて
バガァン!!という凄まじい轟音とともに傷口が爆ぜ飛び、金狼は苦悶に呻きながら四肢を投げ出してアスファルトに倒れ伏した。隙を埋めるべく各所の装甲が乱雑に稼働するが、精彩を欠いたその抵抗は最早脅威ではない。
「好機ッ!」
凄絶な笑みを浮かべた日向が破れかぶれの隙潰しを掻い潜りながら金狼の全身を切り刻んでいく。射撃の反動で宙を舞っていた俺もまた、重力操作で再び金狼の背中を急襲した。
傷口から間欠泉のように噴出していた金色の夢力流にファンタズマの刃が再度突き込まれ、嵌め込まれた宝石がみるみる内に輝きを滾らせる。
(よし、このまま自由を奪って……)
俺は夢力解放の準備に取り掛かるべく、金狼の背中から降りて四肢を完全破壊しに向かった。
しかし、異変は唐突に起きた。
突如、立ち上った夢力が螺旋を描き、金狼の全身を取り囲んだ。密着して攻撃を続けていた俺たちはそれによって強制的に弾き飛ばされてしまう。
「……!?」
受け身を取りながら顔を上げると、俺たちから距離を取るように跳躍した金狼がゆっくりと反転する所だった。巨体を取り巻いていた夢力は咥えられた大剣の刃へと収束され、夜闇を眩く染め上げている。
金狼は四肢を突っ張り、重々しくその
そして、即座に重力操作を全開にした俺たちが上空へ落ちた直後、
大剣の刃から解き放たれた
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