第24話 光明

 飛び掛かって来た狼をカウンターで斬り伏せ、次いで奥から飛来した光の刃を叩き落とす。不死身と化した後、狼たちの攻勢は明らかに激しく前のめりなものになっていた。フレンドリーファイヤも全く気にしなくなり、今のように、仲間が前に居ようがお構い無しに光刃を飛ばして来る。


 加えて、今まで静観を貫いていた金狼が、浮遊する大剣によって頭上から不意の一撃を加えて来るようになり、一気に警戒すべきものが増えてしまった。勿論配下の安全など一切考慮されておらず、結果として狼たちは何度も巻き込まれては蘇生するというサイクルを繰り返している。正直、攻め手を減らさざるを得なくなった俺たちによる撃破数よりもこの巻き込みで塵になった回数の方が多いのではないだろうか。


 そんな中、俺はなんとか蘇生のカラクリを暴こうと、狼たちが塵になってから再誕するまでの過程を注意深く観察していたのだが――


(外部から力が加わった様子は無し……か)


 飛び散った金色の塵は、まるでそうなることが自然の理であるかのように再集結して形を取り戻して行く。その際周囲で夢力が乱れるなど、見て分かるような変化はなかった。


(となると……この蘇生プロセスは始めから狼の身体に組み込まれていたということか?残り12体となれば自動的に発動するように)


 おそらくは、金狼が最初に放ったオーロラのような波動。あれに、刃月狼ブレードウルフへの強制変化だけで無くこの蘇生プロセスを可能とする要素も含まれていたのだろう。光刃による遠隔攻撃といい、こいつらは見た目こそ変わらないが、通常の刃月狼ブレードウルフとは完全な別種としてカテゴライズすべきかもしれない。


(ならば怪しいのはむしろ……配下をそういう身体に改変したヤツの方か)


 回転しながらの横薙ぎで斬りかかって来た3体を一蹴しながら、俺は折れたマンション――金狼の玉座へ視線を向けた。金狼は切っ先を下に向けた12本の輝く剣を身体の周囲で衛星のように回転させながらこちらを睥睨している。


 浮遊剣が12本。配下の狼たちも12騎。不死身になったのと時を同じくしてヤツらが咥えている剣もまた浮遊剣同様金の光を放ち始めており、何らかの関連性はありそうだった。


「……試してみるか」


 俺は乱戦中に降って来た浮遊剣を最小限の動きでかわし、壁のようなその刀身へと渾身の一撃を見舞う。が、ファンタズマの刃は呆気なく弾かれてしまった。


「無駄だ兄上。我も試みたがあれを壊せる気はせんな」


 戦闘の流れで近くに来ていた日向がそう声をかけて来る。俺も今の手応えで、浮遊剣の破壊は無理だと確信した。夢力を用いた【黒耀の一オブシディア・ワン】ならあるいは通るかもしれないが、仮に効いたとしても最低12発必要だと考えると現実的ではない。


 ならばどうする……?と、周りに注意を払いながら空中に戻っていく浮遊剣を眼で追っていた時、違和感を覚えた。


 金狼が従えている、12本の浮遊剣。狼たちの変異直後はナイターの照明と見紛うくらいだったそれらが放つ光が、今は直視しても目が痛みを覚えない程度に弱まっていた。そして、全ての剣の光量が一律に落ちているのではなく、剣毎に差異があるということにも気付く。


(まさか……そういうことなのか?)


 遠方の狼が飛ばして来た光刃を鎌の回転で弾き、返す刀で放った重力弾グラビティ・バレットで頭を吹き飛ばす。浮遊剣を確認すると、狼の再生に合わせて明らかに光のかげった剣が1本。


「……日向。見たか?」


「クク……ああ、この魔眼にてしかと見た」


 日向の口が三日月型に歪んでいるのを見て、今度はこちらから声をかける。剣の光が弱まる瞬間を、日向もしっかり目撃していたらしい。尚、妹の目は普通の目だ。


「ククク……どうやら、殺し続けて死なないという訳でもなかったらしいな?」


 景気良く重力弾グラビティ・バレットを連射して狼5騎を四散させながら、日向が獰猛に笑う。俺もまた、似たような表情をしていることだろう。


 狼たちの復活に必要なリソースの出所は、おそらくあの浮遊剣。溜め込まれているエネルギーが復活によって減少し、それと連動して光量が落ちているのだと考えられた。


 つまり、剣の光量がゼロになるまで狼たちを倒し続ければ――ヤツらは、蘇生出来なくなる。


「兄上、1つ提案がある。夢力解放を切るのはどうだ?」


 再度互いの距離が縮まったタイミングで、日向が切り札の使用を持ち掛けて来た。ここまでの戦闘で2人共夢力は第3段階まで溜まっているため、行使自体に問題はない。基点個体クローザーのために温存したい気持ちも勿論あるが……


「賛成だ。というより、俺も同じことを考えていた」


「流石兄上。気が合うな」


 あの剣から光を完全に奪い尽くすまでに必要な狼の討伐回数は未知数だ。何十……あの剣の1本1本が狼の個体毎に独立していることを考えると、何百かもしれない。長期戦は俺たちから集中力と体力を着実に奪い、が発生する確率を高めていく。360度全方位に加え、頭上も気にしなければならないこのような乱戦なら尚更だ。


 幸いこれから使おうとしている技は、こと“手数”に関しては他の追随を許さない。


 憂いは全て、ここで断ってしまうべきだ。


「クク……ならば躊躇う意味も無し。構えよ!兄上!!」


「ああ……ヤツを、玉座から引きずり落とす」


 交戦していた狼を弾き飛ばしてバックステップし、互いに背を向けた状態で日向と右手の指を絡め合う。


「いざ……逃れ得ぬ死の舞踏場をここに!」


左腕を前に伸ばし、ファンタズマを水平に構え――


「――【黒耀の二ジェット・ツー】!」


「――【完全同調フルシンクロ】」


 紡がれた力ある言葉と共に、俺たちの足下を中心として、深い闇が、路上へ広がっていく。俺たちを取り囲む狼たちの真下へ、玉座の元にまでも……。


 金狼が号令をかける。足を止めた俺たちの脳天を叩き割らんと浮遊剣が迫り、地上の騎士たちは光刃を飛ばしながら剣を振り立てて吶喊して来る。


 だが、その全ては最早手遅れだった。




「開宴せよ――【昏キ凶ツ星ニ捧グ刃舞ブラックホール・マスカレード】ッ!!」

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