第22話 属性相関

<side:暁日人>


 階を建物に避難させた俺は、大通りに面した商業ビルの屋上まで移動して来た。眼下では、日向が激しく鎌を振り回して狼たちを蹂躙している。


「良いぞ!興が乗って来た……我が魔刃の切れ味、存分に堪能せよ!!」


 真正面から剣を振りかざして飛びかかって来た1匹へカウンター気味に袈裟懸けの一撃を叩き込みながら、日向がテンション高くそう叫ぶ。その際すぐ近くで攻撃のタイミングを伺っていた別の狼が、日向の振るう刃に、そのまままとめて両断された。似たような光景が、日向の鎌が閃く度に発生する。


 これは現在使用している両刃鎌型の吸夢刃アブソーバー、【冥銃鎌ファンタズマ】の持つ重力操作能力の賜物だ。扱いこそ極めて難しいが、この鎌は数ある吸夢刃アブソーバーの中でも頭1つ抜けた強力さを持っている。とはいえ、全ての夢霊ゴーストに対して有効かというとそうではない。


 それは奴らに、『属性相性』という厄介な概念があるためだ。


 夢霊たちは、その身に『属性』という7つの自然界の概念の内1つを宿しており、それを攻撃手段に転換して来る。例えば邪ノ眼イビルアイが飛ばして来た火球や、八踏蛇竜オクタニュートの炎の舌がそれだ。


 そして、奴らが宿す属性は、奴らの防御能力にも影響を及ぼす。端的に言えば、奴らは自らが苦手とする属性以外の攻撃を通さないのだ。故に、攻め側の俺たちは対峙する夢霊たちの属性を十分に見極め、弱点を突ける吸夢刃アブソーバーを選ぶ必要がある。


『火』なら『水』を以て鎮め、

『水』なら『雷』を以て貫き、

『雷』なら『土』を以て弾き、

『土』なら『風』を以て崩し、

『風』なら『火』を以て絶つ。


 残る2つ、『光』と『闇』に関しては少々特殊で、互いに弱点を突き合う関係にある。更に、前述した5属性とは相関関係がない。つまり攻撃側も防御側も、ダメージは均等に入ることになる。


 しかし、この2属性を持つ夢霊は得てして素のスペックが高い傾向にあるため、複数属性が入り乱れている場合でもない限りは素直に弱点を突く方が安全だ。


「グルルァ!!」


 俺の存在に気付いたらしい狼の1匹が、顎をしゃくるような動きで光を湛えた剣を切り上げる。すると刃の軌跡に沿ってカッター状の光が放たれ、一直線に俺の方へと迫って来た。


「驚いたな……」


 冷静に鎌を振るって飛ぶ斬撃を散らしつつ、俺はそう呟いた。通常、刃月狼ブレードウルフにこのような遠隔攻撃手段はないはずだったからだ。


 となると、原因は1つしか考えられない。


 相変わらず朽ち果てた建物に陣取って戦場を俯瞰している、仮称・円騎狼ラウンズウルフの力による強化が、刃月狼ブレードウルフたちに施されているのだ。


 金狼の狙いはわからない。強化した部下たちをけしかけて俺たちが疲弊した所を狙うつもりかもしれないし、あるいは、ちっぽけな人間の相手など部下たちで十分と高を括っているのかもしれない。だがいずれにせよ、あの基点個体クローザーを狙うのに邪魔な狼たちはさっさと殲滅するべきだ。


 俺は重力操作を利用してビルの壁面を駆け降りながら、鎌の柄の先端を狼に向けて引き金を引く。軽い反動と共に放たれた黒い礫が、先程光のカッターで攻撃してきた狼の頭を爆砕した。砕け散った剣の欠片が月光を反射しながら道路に散らばり、残った胴体は倒れ込みながら塵に還る。


 この射撃機構が、ファンタズマの“冥銃鎌”たる所以だった。撃ち出されるのは、夢力の塊の重量を限界まで高めた“重力弾グラビティ・バレット”。並の夢霊相手なら防御ガードの上から粉砕出来る。


 地上に降り立った俺を、瞬く間に狼たちが取り囲んだ。暴風のように荒れ狂う日向によって既にかなりの数が屠られているようだが、まだ視界内に50匹は確認出来る。


「ゥア゛ア゛!!」


「グルゥ!」


 咥えた剣を水平に構えた正面の1匹が低い姿勢で俺の脚を狙い飛び出す。横からは別の1匹が、空中で錐揉み回転を加えながら、俺を縦に裂かんと剣を振り下ろして来る。


 対する俺は、鎌の上下に付いた刃を剣の軌跡に合わせ、双方の攻撃を同時に防いだ。直後に鎌を高速回転させて2匹を弾き飛ばし、追撃で空中の1匹を両断。そこから流れるように銃口を向け、脚を狙って来た方に弾丸を叩き込む。


 背骨の中程をまるごと抉り抜かれて勢い良く建物に突っ込んだ仲間の姿を一瞥し、近くの狼たちが威嚇の唸り声をあげる。


「次はどいつだ?」

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