第14話 嵐の前のガールズトーク
<side:階来宵>
『そかそか……つまりこよいっちは見事に玉砕してしまった訳ね』
『それは……なんと言うか……その……ドンマイ?』
「待って。何で私が告ってフラれたみたいな空気になってるの……!?」
夕食の席。パソコンの画面を左右に2分割するウィンドウに、それぞれ私の放課後アタックの結果報告を聞いた親友2人の微妙そうな顔が映し出されていた。
食卓には私以外に誰も座っていないが、そう珍しいことでもない。私の両親は共に大学教授で、研究に没頭して泊まり込むなんてことが日常茶飯事だからだった。今回も重要なコンペティションが迫っているとかでゴールデンウィーク返上の覚悟らしい。別にいいけど体は大事にしてね。
とはいえ、綺沙良に比べれば私はまだマシな方だ。彼女の両親は戦場カメラマン(父)とオカルト系ジャーナリスト(母)というトンでもない職業のために数ヶ月単位で家……どころか国内にさえいないこともざらにある。そんな2人の娘も似たような活動をしているというのは……やはり遺伝だろうか。
そして両親不在組の私と綺沙良とは反対に、鳴衣の親は自宅が仕事場のためずっと家にいる。お父さんが小説家で、お母さんが絵本作家。2人共本屋大賞一歩手前まで行ったことがあるいう人気の作家だった。なお、内容は2人揃って
ただ、そんな職業柄、〆切が近づくとゆっくり夕食を摂る暇も無くなってしまうようで、鳴衣もまた1人ディナーになる日が良くある。そんなそれぞれの家庭事情もあって、いつの間にか私たちの夕食は時間を合わせてリモート会話しながらが基本となっていた。
『あら、残念ね……でも落ち込むことないわ来宵ちゃん。また、次の恋を探しましょう?』
「だから違うんですってば!!」
鳴衣の隣で柔らかい微笑みを浮かべる女性へ私は慌てて弁明を試みる。先述した鳴衣のお母さん――本人の希望により私と綺沙良は“鳴衣ママ”と呼んでいる――が、夕食の時間が合ったということでリモートに交ざって来ていたのだ。時折鳴衣パパが参加することもある。
『いいの、いいの。大丈夫。傷はすぐ癒えるわ?失恋の経験豊富な私が言うんだから、間違いないわよ』
残念ながら鳴衣ママの思考は“私が失恋した”で固定されたらしく、いくら弁を尽くそうとあらあらうふふで流されるようになってしまった。そして鳴衣ママがこんな誤解をするよう場の空気を誘導した元凶は隣の画面でニヤニヤ笑いを必死に堪えていた。後で覚えておれ。
ちなみに鳴衣ママの恋愛遍歴だが、いつ聞いても“鳴衣ママの超思考と緩急の激しさに付いて行けなかった男たちの悲劇”としか捉えようのない内容だ。そんな魔性の女を繋ぎ止めてみせた鳴衣パパは私と綺沙良の中で英雄として崇められている。
閑話休題。
『そ、そうだ鳴衣ママ!こよいっちがまるで映画みたいな夢を見た話、聞きたいですか?』
『詳しく』
私の射殺すような視線を受けた綺沙良がごまかすように鳴衣ママへ話題を振った。内容を考えると私は話し続けなければならないだろうから、その間にうやむやにしようという魂胆だろう。そうはさせんとは思いつつも、今は取り敢えず瞳を星空の如く輝かせていらっしゃる鳴衣ママの興味を満たして差し上げなければ。
「……ええと……あれはですね――」
私はどうしてくれようかと策を巡らせながら、夢の一部始終を語り出すのだった。
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