第15話 寝落ち、目覚め、囚われる
あの後――
夕食を食べ終えた私達はそのまま宿題を片付け、各々入浴を済ませた。そして今は、パジャマ姿で世界の偉人をモデルにしたスマホのデジタルカードゲームに興じている。
『私の、ターン……芥川龍之介の
「あっ!?」
歴史の勉強にピッタリだと猫目先生のお墨付き(というよりどうも開発に一枚噛んでいるらしいことが綺沙良の調べでわかった)をもらっており、実際日本史、世界史の成績が上がったプレイヤーが多数いるらしい。私たちもその口だった。
鎌倉武士軍団を操り先程の仕返しとばかりに綺沙良を完膚なきまでにボコボコにした私は、その流れに乗って鳴衣に勝負を挑んだ……のだけど。
『続いて西行法師の
「何そのインチキ効果!?」
『
「【承久の乱】と【政子の演説】……で防ぎ切れる物量じゃないよねこれ。参りました」
『たいあり~』
……とまあ、ぶっちゃけ手も足も出なかった。
『いやはや……最新レジェンドレアのパワーを見せつけられたねぇ。文豪系偉人は自爆して霊園送りになるのが多いから相性抜群って訳だ……』
『今期環境トップ確実……でも暴れ方次第では
『ねぇめいめい、“死体蹴り”って言葉、知ってる……?』
そんな2人のやり取りを聞いていた私だったが、だんだんと、目蓋が重くなって来るのを感じていた。気付けば時計は11時を回っている。
「ああ、ごめん2人共。そろそろ落ちるね。眠気が……」
『ありゃありゃ。それじゃあお開きかな?おやすみ~』
『おやすみ……』
「おやすみ」
リモートの画面を閉じ、パソコンをシャットダウンする。部屋が静けさに包まれると共に、眠気が一気に増して欠伸が出た。
さっぱりするような味わいの歯みがき粉で歯を磨くも、眠気は逆に増すばかり。鏡の向こうの私も、もう半分くらいしか目が開いていなかった。体の動作も加速度的に緩慢になっていく。
この時点で、明らかに普通の眠気ではない、と、霧に覆われたような頭はようやく認識したが、最早抗うことは出来なかった。
「早く…………ベッドに……………………」
やっとのことで私は洗面所を後にするも、その頃にはほとんど視界がブラックアウトしていた。
無事にベッドに辿り着けたのかさえも、分からなかった。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️
冷たい夜気が、頬を撫でる。何処かから、火薬が爆ぜた時のような匂いが薄く漂って来る。ツヤツヤのフローリングもふかふかのベッドもそこには無い。周囲は荒れ果てた凸凹のアスファルトが広がり、弾丸の跡なのか、穴だらけのコンクリートジャングルが視界を埋め尽くしていた。
気付けばそんな中に、私は空色の寝間着のまま、裸足で立ち尽くしていた。
「………………!?!?!?!?」
驚愕と混乱が一気に襲って来て、私は激しく首を巡らせる。この状況には覚えがあった。というより、昨夜体験したばかりだった。
(そ、そんな2日連続だなんて!!……というか何これ荒廃し過ぎでしょ古戦場のど真ん中にでも放り出されたの……!?)
街並み自体は昨夜の明晰夢と大きく変わってはいない。けれど、単に人がいないだけだった前回とは違い周囲のボロボロ具合が尋常じゃなかった。今すぐ何処かのビルが崩壊し始めても全く不思議じゃない。
その時、遠くでこの世の物とは思えないようなおぞましい叫び声が木霊して、私はビクリと身をすくませた。そうだ、ロケーションに多少差異があろうが、ここが昨晩の夢の世界と同じなら当然例の怪物もいるのは間違いない。
顔から血の気が引いて呼吸が荒くなるのを自覚しながら、私は一先ず身を隠せる場所を探し始めた。
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