第10話 現夢境と夢霊〈ゴースト〉
読んで字の如く、夢と
いつの間にか人々の夢に何食わぬ顔で紛れ込んでいたその世界の存在を示唆するものは、少なくとも昭和以前にはなかった。“人の記憶に残らない”という性質上、それも仕方ないと言えるが。
そんな現夢境は、平成の半ば頃に進入方法が確立され、とある研究機関によって内部の調査が進められていた。その当時は、単に現実世界と瓜二つの不思議な世界というだけで特段危険もなかったのだが……ある事件をきっかけに、現夢境には
「――ッ!」
朽ちかけた5階建てマンションの屋上への着地際、バルーンのように浮遊していた一抱え程の球形の夢霊を背後からサーベルで両断する。前面に蜂の巣を思わせる巨大な複眼を備えたそいつは断末魔の声も残さず塵となって果てた。俺はそれには見向きもせず、崩落した床の穴から急いで階下に飛び込む。
今斬った夢霊は『
現夢境に湧くようになった怪物、『
奴らが何の目的で人間を消しているのかは分からない。だが、何の罪もない人々が、当たり前に来るはずの朝を迎えられないという状況を見過ごす訳には行かない。現夢境の研究を進めていた機関は苦闘の日々の末、奴らへの対抗手段を編み出すことに成功した。
フロアの角へ身を隠し、立て膝を突きながら手にしたサーベルを床に突き立てる。サーベルを中心に不可視の力場が全方位へ放たれ、周辺に潜む夢霊の位置を暴き出す。
現夢境には、現実世界には存在しない未知のエネルギーが空間に満ちていた。研究機関によって『
(……地上に5……屋内に7……
夢力をレーダーのように利用して周辺を精査した俺はサーベルを引き抜き、身を隠しながら目視で
このマンションは5階立てなので、地上を見下ろしている
「好都合だな」
俺は身を隠していた角から飛び出すと、足音を殺しつつフロアを駆け抜けた。先程飛び降りて来た穴から再び屋上へ戻り、すぐにボロボロの貯水槽の裏へ。地上を注視しながら横スライドで接近してくる
俺は呼吸を整え、サーベルを両手で腰だめに構えた。月明かりを反射する極薄の刃から、微かな吸気音が響く。サーベルの刀身が、周囲に漂う夢力を吸引していた。
直後、サーベルの切っ先から収束された夢力が勢い良く噴き出し、発生した推力が俺の体を一気に加速させる。無防備に接近して来た
向こうは寸前で俺に気付いたようだが、その瞬間には奴の複眼をサーベルが貫いていた。規則的なハニカム模様が浮かぶ黒いスクリーンから光が消え、粒子状に飛び散って消滅する。纏わりつくそれを細身の刃で斬り払うと、ナックルガードに嵌め込まれていた
その時、隣のビルからおぞましい金切り声が響き渡り、次いで周辺から声色も様々な雄叫びが挙がる。見れば、こちらを認識した最後の
「さて、ここからが本番だ」
撃ち出された火球をサーベルで斬り払い、俺は邪眼の夢霊に向けて突撃を敢行した。
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