第1夜 祓夢師 ~Dream Diver~
第1話 階来宵の登校風景
私はどうやら、“巻き込まれ体質”らしい。そう気付いたのは何時のことだっただろう。単なる登下校の時間だけでも、やたらと色んな出来事に関わってしまう。
昨日は小川に落ちた子猫を助けた。一昨日は枝に引っ掛かってしまった風船を取って、近くで泣いていた小さい女の子に返してあげた。その前は走って来たひったくりにジュースの空き缶を投げつけてこけさせたりもした。
“毎日がドラマティックな女”。友人から、私――
そして、今も――
「すみませんねぇ……」
「いえいえ、これくらいなんてことありませんよ……っと!」
私は歩道橋の前で立ち往生していたおばあさんの大荷物を肩代わりしている。田舎からこの
この街は再開発の最中で、ここからも高層マンションを建てている紅白のクレーンがいくつも見えるし、眼下の二車線道路を、工事関係の黄色い車やダンプカーが何台も通り過ぎて行く。おばあさんも新しく建てられたマンションの部屋を借りた娘夫婦に誘われて、移住することにしたらしい。田舎での独り暮らしに不安を感じていたので、渡りに船だったそうだ。
やがて歩道橋を無事に渡り終え、おばあさんは何度も私に頭を下げながら歩き去って行った。私は小さくなって行くおばあさんの背中を見送り、そして上半身を脱力させる。朝からの重労働で両腕の感覚がおかしくなっていた。少なくとも、教科書とお弁当で結構な重さがあるはずのスクールバッグが羽のように軽く感じる程度には。
「バレーボール大丈夫かなこれ……」
3時限目の体育までになんとか腕を休めないとなぁ……とげんなりしながら、雲1つない快晴の下を歩いて行く。お願いだからこれ以上は何も起こらないで欲しい。
ただでさえ、昨夜はしっかりと眠れた気がしないのだから。
「……………………」
昨日の夜、私は不可解な夢を見た。
その夢は酷くリアリティがあり、まるで起きている時と変わらない程に五感がはっきりしていた。外気の冷たさも、乱れた呼吸の苦しさも、身体の疲労も全てが鮮明に感じられた。
ただ1つ、現実と違っていたのは――
「――――!!」
それの姿を思い浮かべた瞬間に悪寒が襲って来た気がして、私はびくりと身を震わせた。あの奇妙な世界が、現実とは違うのだということを示す、最もたるモノ。闇を固めたような巨体を持つ、得体のしれない怪物。
結局あの怪物は何だったのかということは分からず仕舞いだった。それでも、私は本能的に、“あの怪物とは分かり合えない”“共存の可能性は万に一つもありはしない”と感じていた。
そして続けざまに、私は思い出す。怪物たちから私を助けてくれた、夢幻のような女の子と、月明かりのような少年のことを。彼らは明らかな人外の力を振るい、瞬く間に怪物を殲滅してしまった。
右手に目を落とすと、あの時私を引っ張り起こしてくれた、女の子の手の温もりが蘇って来る。あの世界は確かに夢の中だったのだろうとは思うけれど、この手に感じた暖かさまで
(絶対に見つけ出すんだ……そしてきちんとお礼を言わなくちゃ)
知らず知らずの内に右手を硬く握り締めて決意を固めながら、私は残り半分程の通学路を歩いて行く。
願わくは、このまま平穏無事に学校まで辿り着けますように――
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