11話 召喚魔術の非戦闘利用について もしくは墓地で一括処理出来ないと後始末は大変だという話
討伐目標だった怪巨鳥は、日暮れまでにはすべて駆逐されていた。
しかし討伐したという証は、やはり必要なのだとジュリオさんは言う。
何しろ4度も大規模な討伐部隊を退けた魔獣だ。
帝国としても交易路封鎖の原因となった怪鳥の討伐確認は必須であり、それは口頭だけの報告では成立するものではない。
したがって、判り易い証明が求められる。
この場合は、群れの主の首級などが妥当だろう。
怪巨鳥の姿は元討伐部隊をはじめ多くの兵も知るところであり、その中でひときわ大きい主の頭ならば、一目で件の魔物を討伐したという証になるだろうとジュリオさんは語った。
だが、問題はその首が谷底深くに落ち、そろそろ日も暮れるという事だ。
飛翔の魔符で谷底まで降りてみたが、そこは一面の躯の山だった。百に届こうかという怪巨鳥であったモノは何れも無残な姿で谷底の閉所に積み重なっている。
主を倒した後も相応の数の巨鳥を撃ち落していたので、ひときわ大きいはずの主の死骸は埋もれて確認できない。
ここで更にジュリオさんは幾つかの懸念点を挙げた。
「ローウェイン様、主の首級は別としても、これほどの骸は放置出来ませぬ。血の臭いに釣られ獣も寄り付きましょうし、放置の後には腐敗し屍毒も生じましょう。何より、これ程の大量の死と骸は不死者を生みかねぬかと」
不死者とは、前生の創作物にもよく見られた、死体が動いて襲い掛かってくるあの手の魔物だ。
今生のこの世界では、複数の要因で自然発生したり、魔術師が使役目的で作り出したりする。
師匠が模擬戦の折に召喚した骸骨狼などは分かりやすい例だろう。
ジュリオ様が言うには、この場合大量の死と怨念に、積みあがるほどの死体の山は、不死者が自然発生する条件としての要件が重なり合っているとの事。
「間もなく夜の帳が参ります。世は陰の属性に包まれ、陰の魔物である不死者が生じる可能性も、一層高まりましょう」
「あのジュリオさん、不死者の発生の対策は何かありますか? 私は、まだそういったことに詳しくなくて」
「ジュリオとお呼びください、ローウェイン様。不死者発生の対策は、神職による浄化の儀式や炎による浄化が定石に御座います。なれど、今は困難かと」
この世界には神々が明確に存在している。その為神官や巫女といった存在は前生とは意味合いが全く違う。神の声を聴き、地上での世界運営の一助を担う。巫女は特に神々に奉仕する存在として尊ばれるそうだ。
そして彼らは神の力たる奇跡を地上で出力する子機でもある。
所謂信徒として神の奇跡を行えるのだ。
ジュリオさんも根本的には神に仕える神官のようなものであり、浄化の奇跡も行えるのだとか。
しかし今回は幾つか悪条件が重なっているのだそうだ。
余りに死体が多すぎる事、周囲の岩肌に広く飛び散った怪鳥の血が既にこの地を不浄に染めてしまっていること。
炎による浄化つまり火葬も、ここまで死体が多いと燃料が足らない。
何より日暮れは目の前だ。どの方策を取ろうとも日が落ちる方が早く、間近に居ては不死者発生の後にすぐさま襲われかねない、と。
ジュリオさんは、気休め程度の簡易的な浄化だけ行い、明日何らかの方策を取るべきだと主張した。
そういえば、ジュリオさんは先の討伐から妙に私に対して丁寧な接し方になったように思う。
呼び方も変えるように頼まれたし、どういう心境なのだろうか?
気になるところだが、まずは目の前の問題から片づけていこう。
「大丈夫です。夜になって時間が足りないなら少し日を伸ばして、後は人海戦術で主の首を掘り出しましょう。浄化も多分出来ますから」
「……仰られる内容は理解できますが、常識というのもが揺らぐ思いで御座います」
何だか遠い目をし始めたジュリオさんをそっとしておいて、私は陽の属性で固めたケースを取り出す。
まず日が暮れるまでに人手の確保だ。
陽の属性の召喚モンスターは、殉教の突撃兵等のような人型の兵士が多い。
上位になると騎士型や神官型などの強力な存在も呼び出せるが、今はとにかく多数の兵士型モンスターを呼び出すことに注力する。
名称:居並ぶ戦列兵
マナ数:陽
区分:召喚魔術
属性:兵士
攻撃:100
防御:0
生命:100
効果:他の居並ぶ戦列兵1体につき防御+50
名称:熟練の工兵
マナ数:陽〇
区分:召喚魔術
属性:兵士
攻撃:100
防御:0
生命:100
効果:ターン開始毎に防御+50
名称:敬虔なる従軍神官
マナ数:陽〇
区分:召喚魔術
属性:兵士・神官
攻撃:0
防御:100
生命:100
効果:陰属性のモンスター1体を対象とする。対象の能動効果の発動を無効化する
呼び出し魂の複製が終わったら、即座に死体の山の片づけと主の遺骸の探索をさせた。兵士型モンスターは、このように戦闘以外でも様々な作業をさせることができる。
準備の一か月の間に、私は召喚したモンスターに何ができるかを確認していた。
それにより、草原狼のような4足の獣や大型の飛行特性持ちモンスターなどの背に乗っての移動や、鳥や蛇型による偵察などが可能だと分かっている。
丘巨人のような大型のモンスターは、大岩を動かすなどの作業をさせられるし、人型に至っては設定された属性に含まれる技能まで可能だったのだ。
今回呼び出した工兵は防護壁などを作成できるほか、前生で言う塹壕を掘ることもできる。
主の死骸を探し、首を探すのに最適なうえ、他の死体を埋める穴も掘らせることも可能だ。
従軍神官は浄化の奇跡を期待して呼び出した。期待した通りに使用可能だったので、ジュリオさんと共に手分けして穴に入れる前の死体を浄化している。
怪巨鳥はその名の通り巨体であるため、戦列兵の集団での共同作業が有効だ。
まさしく軍団そのものでの埋葬作業に、死体の山は少しづつ確実に削られていく。
しかし日も着実に傾き、彼方の山並みに消えていく。夜は目の前だ。
その前に私はある付与魔術を発動する。
名称:聖なる陽光
マナ数:陽〇〇
区分:儀式・付与魔術
対象:場
次ターンから、全ての陽マナを使用するモンスターに攻撃+100
「陽光が周囲を満たすと、勇士達に活力が宿った」
陽属性のモンスターを強化する付与だ。これは場に付与する儀式魔術だが、今回は強化そのものを目的としていない。
求めているのは、フレーバーテキストに記された陽光そのもの。
私の狙い通り、ポルクの山峰全体は夜闇に包まれた後も、この谷底の辺り一帯は暖かな光に包まれたのだ。
これにより作業は滞りなく続いた。
日が沈んでから小一時間で主の首は無事見つかり、また無数の巨鳥の死体も、神官型モンスターが行う浄化により清められた後工兵が掘った大穴に入れられ、埋葬されていったのである。
ところで、私の前生の記憶では、山の夜は冷え込みが厳しいというものがある。
特にこの地は高山病も発生するような地だ。
今のところ体調は問題ないが、疲れや空腹を感じてきたのも確か。
このまま作業完了まで見守るのは、肉体年齢9歳の身には少々過酷であった。
そもそも今生において、私は実はシリアムの大森林から出るのはこれが初めての経験となる。
母上の元以外で夜を過ごすことも、山登りも、野営も初めてのことだ。
主の首級を確保したのち、私とジュリオさんは作業を召喚されたモンスターたちに任せ、交易路中の休憩地であったであろう空き地に戻ったのだった。
既に夜半にかかっているが、谷底からの明かりがあるため真っ暗闇というわけではない。
今夜はここで一晩明かすことになるのか。
ふと空を見上げると、前生のものとは配置の違う星空が広がっていた。
崖下の明かりが邪魔をして明るい星しか見えないが、特に知識が深くなくとも知っているような柄杓の並びのそれの姿は見当たらない。
この世界に北極星はあるのだろうか?
そんな思いを抱きながら星に見とれるどこかキャンプ気分の私に、ジュリオさんがどこか思いつめた表情で私に話しかけてきたのだった。
ローウェイン様、至らぬ身をお許しください、と。
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作中カード紹介
名称:居並ぶ戦列兵
マナ数:陽
区分:召喚魔術
属性:兵士
攻撃:100
防御:0
生命:100
効果:場に他の居並ぶ戦列兵が存在する時、1体につき防御+100
「戦列兵が陣形を組んだら気をつけろ お前は城の前にいるも同じだ」
名称:熟練の工兵
マナ数:陽〇
区分:召喚魔術
属性:兵士
攻撃:100
防御:0
生命:100
効果:ターン開始毎に自身の防御へ+50
「その工兵達がやって来ると、またたく間に周囲は砦となった」
名称:敬虔なる従軍神官
マナ数:陽〇
区分:召喚魔術
属性:兵士・神官
攻撃:0
防御:100
生命:100
効果:対象を1体選ぶ。そこれが陰属性のモンスターの場合、能動効果の発動を防ぐ
「神官の祈り無くして瘴地の行軍はあり得ぬ」
名称:聖なる陽光
マナ数:陽〇〇
区分:儀式・付与魔術
対象:場
次のターンより全ての陽マナを使用するモンスターに攻撃+100
「陽光が周囲を満たすと、勇士達に活力が宿った」
解説:陽属性のモンスターの特徴は、様々な特性や能力を持つ兵士型モンスターにある。
単体では然程脅威ではないが、戦列を組んだ場合は強大なモンスターにも対抗できるだろう。
また陽属性の儀式魔術は集団への強化を可能にするため、その特徴を一層際立たせる。
魔符開発者であるヘカティアは、召喚モンスターへ付与する能力の実験を陽属性兵士型にて行っている節があり、玉成混合様々な能力が生み出されていった。
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