7話 属性と最大マナについて もしくはちゃんと振り返って感想戦をしようという話

「結論から言うわ。複数の属性でマナを染めると、1属性増やす毎に最大マナが1減って、それが対抗属性を含むならもう1つ減る。これが法則ね」


 模擬戦が終わり、手も足も出なかった事実に幾らかの時間を放心した後、私は師匠のマナ生成について判明した事実の解説を聞いていた。

 私が先の模擬戦で成せたように単属性なら10マナまで生成可能だが、例えば2属性で染めた場合9マナまで、さらにそれが火と水のように相反するマナを含む場合は8マナまで最大が下がるということだ。

 一覧にすると以下のようになる。


 単属性:10マナ

 2属性:9マナ

 2属性1対抗:8マナ

 3属性:8マナ

 3属性1対抗:7マナ

 4属性1対抗:6マナ

 4属性2対抗:5マナ

 5属性2対抗:5マナ


 法則からすると、5属性は4マナまでにしかならないように思えるが、4属性時に5マナ目が生成されるため5属性目を染めるのが可能であり、結果このようになるようだ。

 さらに師匠が言うには、これにも例外がある。私が使用した地脈活性のような魔符を使用した場合、6属性目を発生させられる可能性があるそうだ。


 他にも、実際に試合形式で魔符を使ったことで分かったことがある。

 魔符の再使用についてだ。

 今回魔符を使用するにあたり、師匠は同じ魔符を3枚づつ用意していた。

 それというのも以前のようにマスターカードの初期化による魔符の再使用化は、試合中では到底不可能だったからだ。

 よって模擬戦後に初期化しようとしたのだが、師匠は新たな魔符の補助具を用意していた。

 それは、一見すると前生の厚めのカード入れのように見えた。サイズはトランプの箱程度で、表と裏に魔符がちょうど通るスリット型の穴が開いている。


「これは簡単に言うと魔符入れ兼使用済み魔符の魔力負荷を解消する浄化器なの。一度使った魔符はこの中に入れておけば自然に再使用できるようになるわ。とりあえずは、ケースとでも名付けましょうか」


 軽く説明を聞くと、これは前生のTCGで言う山札と墓地を足し合わせたようなものに該当するモノらしい。

 試しに先の模擬戦で使用した魔符を裏側から入れてみると、すくさま再度使用できる状態に戻ったのを感じた。

 そして中に入っている魔符の一枚を念じると今度は表側のスリットからその魔符が飛び出してきた。 

 おお、これは便利だ。

 しかし同時に先ほどのようなマナを使いまくる戦闘中では即時使用可能にはならないそうだ。

 まだ実戦での再使用可能時間は確認できていないので、これも今後要確認だろう。

 そしてもう一つ。

 このケースには所謂デッキ編成をしやすくする面もあるのだという。

 先ほどの模擬戦では師匠は多数の魔符を周囲に浮かべて、そこから魔符を選び使用していた。

 しかしあいにく私にそんな器用な真似は出来ないので、まるで前生のババ抜きのように魔符を大量に手に持った状態だったのだ。

 正直なところ非常に扱いにくかった。実感として感じるが、所謂山札全てを手にするような状況は無駄に目移りもするし実用性に欠ける。

 それがこのケースに入れると、脳裏に使用可能な魔符が浮かび、管理がしやすくなっている。出来れはコレは先程の模擬戦でも使わせてほしかった程なのだ。

 恐らく師匠は、先に不便さを実感させておきたかったのだと思う。

 更に検証で明らかになった複数属性によるマナへの影響を考えると、属性分けした魔符編成を事前に行っておく方が得策と言える。

 この魔符入れはいくつも作ってあるそうで、今後事前に想定される状況に合わせたデッキを組めそうだった。

 実際マナの縛りを考えると、普段は様々な状況に対応できる5属性デッキを持ち歩いておきたい。

 同時に今回のような決闘や諸々の想定可能な状況に応じて、対応し易い属性を主とした魔符の編成も組んでおきたいのだ。

 だが師匠はそんな私に待ったをかける。


「魔符の編成をしたいのはわかるけれど、もう少しお待ちなさいな。まだ色々と手を加えたいのよ。魔符の枚数も増やさないといけないでしょうしね」

「今あるもので、手を加えなくても済むものだけでも使えませんか?」

「我慢なさいな。でもまあ言いたいことはわかるし、初めに造った6属性の即時魔術くらいは持っていてもいいわよ? でも草原狼は駄目。召喚魔符は全体的に見直したいから」

「わかりました」


 そう言って師匠は紅蓮の鏃などの1マナ魔符を各三枚づつ渡してくれる。

 複数属性と最大マナの関係で5属性までしか同時に扱えないが、基本的な性能揃いのこれらは今の私が手持ちにするには十分に過ぎる。

 紅蓮の鏃でさえこの森の周辺で自衛するには恐らく十分に過ぎるし、治癒魔術も含まれているので万が一の時にも安心だ。

 早速一つにまとめてケースに入れる。

 このケース、どういう仕組みかわからないが手に持つ以外にもベルトや腕に付けることができるようだ。左手などに据えると、前生でのTCG関連作品のカードホルダーの数々を何となく思い出してしまう。

 いかんな。前生を思い出すと、デッキを組みたい欲が沸いてくる。

 私は前生で所謂鑑賞勢であまり大会などに参加はしていなかったが、それでもデッキを考えたり身内でその検証をしたりは絶えず行っていた。

 現状まだそういう編成をするのにカードプールが足りない状態なので仕方ないが、私としても先の摸擬戦の結果はいろいろ思うところがあるのだ。

 正直なところ、今度はマナの生成の検証を考慮にしない状態で色々試したいのだ。


 冷静になって先の摸擬戦の展開を思い起こし完封された原因を考えると、大龍脈発動後の終盤に置いて、焦りの余りに大型モンスターに頼ったのがまずかったと思う。

 最大マナを使用する魔符の実戦確認の意味もあったのと、最大マナを使用する大型カードの使用の誘惑に負けた面は確かにある。

 だが戦況を鑑みると、むしろあふれるマナで中型の丘巨人クラスを複数並べた方が師匠を手こずらせることができただろう。

 そうやって面で場を制圧し押し切っていれば、もう少し状況は違っていたはずだ。

 師匠が使用した除去効果のある魔符は、手持ちのモンスターを代償にしなければ使用できず、連発出来ないものだった。さらには師匠のマナはこちらの半分。1手番にできる行動は限られていた。

 手数が限られる相手に、あえて手数を絞るような戦法で対処しようとしたのが失敗だった。

 私が呼び出した大型モンスターはつまるところ単騎であり、結局師匠の小技で翻弄されて全く力を振るえなかった訳だ。

 よくよく振り返った結論は、私の判断ミスからくる完敗。さすがは師匠だ。 

 そもそも支障は魔符開発者であるし、魔符の効果は全て把握していただろう。対して私は魔符の把握は完全ではなく、マナ関係の検証のためにあえて無理に力押しした部分もあった。

 だがそれにしても師匠の立ち回りは手慣れ過ぎていたのではないかと思う。まるでTCG経験者だ。

 向かい合っての魔術決闘に馴染みすぎていたのではないだろうか?


「もしかして、師匠は先に言っていた魔術師同士の決闘に慣れていますか?」

「昔はウェドネスと一緒にヤンチャしたものよ。いやー、若かったわねぇ。魔術貴族って無駄にプライド高いのが多くって困ったわ」


 どうも話を聞くとまだ外見通りの年齢だった学生時代に父上と組んで大層派手にやらかしたようだ。

 一応相手側からの売られた喧嘩を買う事が主だったとの事だが、この師匠の事だ。目一杯高値で取引したに違いない。

 喧嘩を売った相手も下天した神に挑むとか大した無謀さだとは思う。

 正体を知らないにしても蛮勇にすぎる。

 師匠の気性からして、神の欠片という事実を隠しはしても、その魔術の実力を隠すことはなさそうなわけで…恐らく突っかかっていった魔術貴族の皆さんはさぞ悲惨な目に合ったに違いない。

 先の私みたいに決闘で余裕をもって完封されたら、無駄に高かったというプライドを粉々に粉砕されたことだろう。

 若い頃の話だというから、破れ倒れた貴族に周囲を囲まれながら妖艶な美女と美少年のタッグが勝ち誇る光景が繰り返されたりしたのだろう。ご愁傷様としか言いようがない。

 完全に他人事の私であったが、師匠はそこで待ったをかける。


「何他人事の顔してるの? 貴方も何年かしたら魔術学院でそういう連中相手にすることになるんだから」

「…もしや、私も帝国魔術学院に行かねばならないのですか?」

「あと5年もしたらね。何の為にこっちの世界の基礎知識と既存魔術の基礎を教えてきたと思ってるの?」


 いやそれは普通に人としての基礎教育程度かと…いや確かにトトラスの開拓村のほかの子供たちはせいぜい寺子屋レベルの学習に留まっているようで、内心自分が受けている教育の高度差との落差に疑問を覚えてはいたのは確か。


「最終的に魔符魔術は学院でも広める必要があるもの。ワタシはこの先も開発に注力しないといけないんだし、広める担当の貴方になるわね。そうなると相応の地位が欲しいでしょう?」

「だから学院を卒業し、私に魔術貴族になれと?」

「その通りよ」


 参ったな。私はてっきりトトラス村での師匠の表の顔である魔女医を継ぐものかと思っていたのだ。田舎でゆっくり魔符のテストをして、世に広めるのは父上あたりに丸投げするのかとでも思っていたのだが、どうもそうではないらしい。


「まぁ今直ぐの話じゃないから安心なさい。ただし、どういう身分で学院に行くかはそろそろ決めた方がいいわね?」

「身分というと?」

「魔女医の息子か、学院長の息子のどちらかって事よ」

「…ちょっと待っていただきたい母上。何でしょうかその2択は?」


 いや言いたいことはわかる。もし私が学院長である父上の子として学院に行くとどうなるか?

 先に聞いたプライドの高い魔術貴族の類に絡まれるのは必至だろう。過去の両親のやらかしで親世代等から恨みを買っている可能性もある。

 逆に魔女医の息子ではどうなるだろう?

 こちらは変にその手に関わらなければ穏便に済むかもしれないが、平民が見たこともない魔符魔術を公開して広めていくわけで、こちらも軋轢が多そうである。


「割とどっちもどっちなハズレ選択肢に思えますが?」

「苦労の方向性の違いなのは確かね。魔術を広めるほうならウェドネスの息子名義のが都合がいいから、そっちを勧めたい所だけど」


 母上的にはやはり学院長の息子路線を選んでほしいらしい。私はひとしきり悩んだ末に問題を先送りにした。

 せめて父上とも話し合わせていただきたいと。

 それがさらに厄介な状況を引き起こすのだが、この時の私は知る由もなかったのである。

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