6話 魔符魔術師同士の決闘について もしくは問題の確認には摸擬戦が一番だよねと言う話

 私と師匠が住む住居の周囲は開けた平地になっている。

 大森林の中心部がこのように開けているのは余りにも不自然なのだが、何のことはないコレは師匠たちと堕ちた世界樹の魔王との戦いの爪痕なのだという事だ。

 10年ほど前に起こったその戦いにおいて、森の大樹と一体化した魔王の眷属を一掃するために母上が放った広域殲滅魔術は、凄まじい威力を発揮して周囲一帯の敵を根こそぎ吹き飛ばしたのだとか。

 辛うじて耐えきったのは魔王のみであり、周囲は地面ごと大きく消し飛ばされ、周りを取り巻く森との境目は高低差のある断崖になったほど。

 想定するに前生における核爆弾や相応の大きさの隕石でも降れば同党の威力を発揮できるかどうか。

 流石の魔術の神の下天した姿と言った所だろうか。

 元は魔王の棲み処であり、それを強力な魔法で薙ぎ払ったせいか、ここでは本来栽培に向かない希少な薬草が育成できるらしく、私達が食べる食料なども含めた畑等が広がっている。

 その一角、畑ではなくむき出しの土が広がった空き地に師匠と私は居る。

 魔符魔術において、師匠も想定していなかったマナ生成異常に対する検証をするためだ。

 異常のあった日から数日も間が空いたが、これは検証するのに必要な魔符の生成に時間がかかったから。

 そもそも師匠が言うには、魔符を新たに生み出すというのは、ある種の概念創造なのだという。

 火と言う概念のない世界に新たに火と言う概念を無から生み出して、世界の基幹部に新たな構成要素として組み込むのに等しいのだとか。

 所詮今生で魔術そのものを学び始めたには到底理解が及ばず、前生にて触れた物語などでの記憶でなんとなしに理解できるかどうかというもの。

 まあそれは良いのだ。結局のところ私は魔符のテスターであって開発者ではない。

 私が行うべきは出来上がった魔符の評価であり、気にするべきは師匠が示す新たな魔符群だ。

 かなり枚数が増えている。同時に同じ魔符が複数枚存在しているようにも見えた。

 そういえば以前師匠が語ったところによれば、新しい種類の魔符を生み出すのに比べて、同じ種類の魔符を複製するのは非常に容易なのだそうだ。

 例えるなら前生で仕事の書類を一から書き上げるのはある程度のテンプレートや仕様が決まっていてもそこそこ難儀なのに比べて、それを複製するのはコピー機にかければ済んだのと同じか。無論コピー機も高度な技術の結晶ではあるのだが、認識としてはそんなところで良いのだろう。

 問題は、この一気に種類の増えた魔符をどうするつもりで師匠は私をここに連れてきたのかだ。


「これからワタシと貴方で摸擬戦をしてもらうわ。マナの生成異常が何で発生するのかある程度想定は出来たけど、それを確かめるのにはそれが一番わかりやすそうなの」

「摸擬戦ですか。いよいよテスターらしくなってきましたね」

「貴方も待ちに待っていたでしょう? ワタシとしても貴方の以前の人生での知見を一番活用できるのはこういう方法だと思うのよね」


 そう言うと、師匠は私のマスターカードを手に取り、何か調整じみたことをしはじめた。すると表面に記された生命の項目に変化が起きる。そこには障壁値:1000と記されていた。


「摸擬戦で傷つくのは嫌でしょう? 試合用の保護障壁を施したわ。これで生命へのダメージは障壁への負荷になるの。負荷が1000ダメージ分を超えたら試合は強制的に終了よ」


 師匠は更にもう一枚のマスターカードを取り出した。名前の項目を見ると、そこには師匠の名前がある。師匠は元々マスターカードが無くても魔符を使えるが、摸擬戦と言う体に合わせるために自分用のものを作ったのだろう。

 私は攻撃や防御などの欄に記された少々理解を拒みたくなる数値から目をそらし、私の同様の障壁値:1000を示す生命の項目を確認した。

 なるほど摸擬戦と言うからには同じ条件なのか。


「実は魔術師同士の決闘ってありふれてるのよね。帝国は魔術貴族をいっぱい抱えてる分相互の意見の食い違い何てしょっちゅうだし、複数の魔術師でぶつかり合うと被害が大きくなるからって敵国の魔術師と1対1の戦いに調整したりとかもあるのよ」


 そこではカードこそ使わないが前生のTCGの試合じみた魔術の応酬が繰り広げられるとか。


「今回の摸擬戦もその作法に準じるけれど、魔符魔術としての形態を今後練るのにも一当たりしておきたいのよ」


 師匠はそういうと、ばらばらに広げられた魔符を属性ごとにより分け、土の属性の集まりを私に渡し、それ以外を自分で持った。


「ん~? これは単一属性と複数属性の比較の検証ですか?」

「そういう意味もあるし、前回のマナ生成異常を再現するのにちょうどいいの。お互いマスターランクは10で、問題なければ10マナまで生成していける筈だけれど、どうなるかしらね…しばらく時間を上げるから、良く渡した魔符を見てどう立ち回るか決めなさいな」


 私よりも多くの魔符を持つ師匠であるが、それらすべてを自分で生み出した師匠である。今更確認する必要はないのだろう。

 対して私は今初めて見る魔符ばかりだ。土属性と言う事で先に扱った草原狼や地の鎧も含まれているが、それ以外にも様々な効果の魔符が新たに出来上がっていた。

 うわ!? 硬いなぁこの召喚モンスター。敵で出てきたらどう対処したらいいんだ? あっこれ初手で使った方がいい奴だ。

 大体の内容に目を通し、おおよその行動方針を固めていく。


「準備が出来たら始めるわよ。」

「もう少し確認したいことはあるのですが」

「細かなルールは試合を進めながら説明するし、まずは慣れよ。やっていくうちに覚えるわ」


 確かに前生でも初めて触れるTCGには先にルールを覚えようとするより、実際にカードに触ってプレイしながらの方が覚えやすかったように思う。

 仕方ない。まずは当たって砕けるか。


「わかりました。では始めましょう、師匠」

「いい返事ね。じゃ、行くわよ?」


こうして、私と師匠はこの世界で初めての魔符魔術決闘を始めたのだ。



1ターン目

ローウェイン:1000

マナ:〇

ヘカティア:1000

マナ:〇


「師匠、それで先手はどう決めるんですか?」

「どっちも好きに動けばいいんじゃないかしら?」

「ええ~?」

「実戦で先に順番を譲る魔術師なんていないのよね…それにやっていけば分かるわ。何とかなるわよ」


 言いながら師匠は召喚魔符を起動する。


名称:骸骨狼

マナ数:陰

区分:召喚魔術

属性:不死・狼

攻撃:100

防御:0

生命:100

効果:なし


「草原狼の属性違いですか?」

「まだ召喚魔符に特殊能力を追加する検証は出来てないのよね。その内にこの子には1回のみの再生とかを加えたいところだけど」

「楽しみですね。ところで攻撃はしないのですか?」

「今の召喚されたばかりの状態は、身体を生成しただけの段階なのよ。ここから魂の複製がこの子に馴染むまで次の手番くらいまで時間がかかるの」

「なるほど、速攻性はないのですね」


 例外はあるわよ? との師匠の言葉。ともあれこれで師匠の分の〇マナが陰属性に染まる。

 無論私も何もしていないわけではない。ちゃんと魔符を発動させている。


名称:地脈活性

マナ数:土

区分:儀式魔術

対象:術者

次ターン開始時に土属性マナを追加で得る。


「やっぱりそれ使うわよね」

「壁になるモンスターを呼ぼうかと思いましたが、摸擬戦でマナ検証を兼ねているならこちらかと。マナ加速はどのTCGでも強かったと記憶していますし」

「検証優先指向なのは有難いわ。そうそう言い忘れていたけど、儀式魔術はその地脈活性みたいに効果自体は次の手番に発動するの。覚えておきなさい」


 儀式魔術は効果が高いらしいが、発動まで時間がかかるということは妨害もしやすそうではある。今後の儀式魔術の使用の際には念頭に置くべきだろう。

 とはいえこれで私のマナも土に染まったため、次の手番がやってくる。


2ターン目

ローウェイン:1000

マナ:土土〇

ヘカティア:1000

マナ:陰〇


「行きなさい、骨ワンちゃん!」

「いきなりですか!? 土の壁!」


 マナの充填が為されたと同時に魂の複製が終わったのか、師匠が容赦なく私に骸骨狼で攻撃を仕掛けてくる。対する私はとっさに新たな召喚魔術を発動する。すると襲い掛かってくる骨の狼の目の前をふさぐように土の塊が盛り上がった。


名称:土の壁

マナ数:土

区分:即時・召喚魔術

属性:壁

攻撃:0

防御:100

生命:100

効果:なし


 即時に発動する召喚魔術は、攻撃値が0で攻めには使用できない代わりに防御には有用のようだ。

 一瞬で魂の複製も完了するあたり、先ほど師匠が言っていた速効性を持つ召喚の例外とはこのことを指すのだろう。

 土の塊であるのに骨狼の行方を阻む姿に、私はとりあえず攻撃をしのげそうだと一息つく。しかし師匠は更に容赦がないようだ。


「その壁邪魔だから燃やすわね。紅蓮の鏃よ」

「本当に容赦がない!?」


 無色のマナを火で染めて紅蓮の矢が土の壁を射抜く。崩れ落ちる土の壁を避けて再度骨の狼が私に迫った。


「直接火力は防御に影響受けないのよ。覚えておきなさい」

「本当にきついんですけど!?」


 再度土の壁を呼ぼうとしたが間に合うタイミングではなく、私は障壁の上から骸骨の狼に齧られてしまった。摸擬戦で障壁があるとはいえ心臓に悪いぞこれ。

 …こうなったら下手に守りに入るより簡単に除去されない大駒を狙おう。覚悟を決めた私は、再度摸擬戦始めに使った魔符と同じものを2枚取り出した。


「防御にも使える壁を追加するかと思ったら、思い切るわね。今どの魔符も3枚づつ用意したけれど、全部使い切るなんて」

「大型のモンスターの召喚を狙うのは土属性の特徴のようですから」


 地脈活性を2枚発動した。これで私は次の手番で最大6マナを使用できる。

 対する師匠は既に陰に染まっているマナでもう1体の骸骨狼を生み出していた。


3ターン目

ローウェイン:1000-100=900

マナ:土土土土土〇

ヘカティア:1000

マナ:陰火〇


 マナが充填された瞬間、私は即座に動いた。


「土の壁召喚! そして来たれ丘巨人!」


 私は2匹の骨の狼が動き出す前に土マナ二つで土の壁それぞれ防げるように2体呼び出し、残る4マナで大駒を呼び出した。


名称:丘巨人

マナ数:土〇〇〇

区分:召喚魔術

属性:巨人

攻撃:300

防御:300

生命:300

効果:なし


 攻撃防御生命すべてが高い丘巨人は、前生では電信柱程度の身長を持つまさしく巨人だ。呼び出しておいてなんだが、間近に出現され想定外の大きさに驚いた。


「うぉ…でかっ!?」

「あら硬いのが来たわね。どう対処したモノかしら?」


 師匠はとくに気にしていないようだ。これくらいの大きさの脅威などは見慣れているという事だろうか? 動揺した様子もなく師匠は新たな魔符を発動させると、二匹の骨犬を再びけしかけてきた。

 私は土の壁にカバーさせようとするが、何故か相手は壁をすり抜けてこっちに噛みついてきた!?


「な、何で!?」

「即時魔術、疾風突破を使ったの。2マナまでのコストのワタシが支配する召喚モンスターは、次の手番までモンスターのガードをすり抜けるの」

「先に効果言ってくださいよ!?」


名称:疾風突破

マナ数:風〇〇

区分:即時魔術

対象:術者

次ターン開始時まで、使用者が支配する2マナまでのモンスターは全て相手術者への直接攻撃が可能となる


 魔術の師匠はそもそも魔符の開発者であるわけで、自分が知っていることが当たり前すぎて他者への説明がおろそかになりがちなのではないだろうか?

 というか本当に容赦ないなこの人。マナ的にはこっちがかなり優位なのに一方的にしてやられっぱなしなんだが!?

 何とか一矢報いたいところだが、これでお互いマナは使用しきっている。次の手番待ちだ。


「ところで、貴方のマナは今合計6マナまで増えていたわよね?」

「…本当ですね。ということは、単属性なら想定された10マナまで生成可能だと?」

「可能性はあるわね。私ももうすぐ別々の属性でマナを染め切りそうだから、そこで比較ができるわ」


 着実に検証しながら私を圧倒してくる師匠が余りに師匠過ぎる。

 流石開発者と思うべきなのだろうけれども、このまま押し切られるのも面白くないが、さて。


4ターン目

ローウェイン:900-200=700

マナ:土土土土土土〇

ヘカティア:1000

マナ:陰火風〇


「行きます師匠、丘巨人で攻撃!」

「はい、影の呪縛。次の手番まで大人しくしてなさい」

「キッツいんですけど!?」

「あとは紅蓮の鏃で土の壁を1枚焼いておくわね」

「キッツいんですけど!?」


 ようやく召喚した大駒が陰の1マナ魔術で棒立ちにされる哀しさと来たら。

 おまけになけなしの壁モンスターも無残に焼かれる始末。

 土属性だけの魔符編成だと特化である分小回りが利かないのを実感する。

 使用可能マナ数的にはこちらが優勢であるのに、師匠が操る複数属性の柔軟さに手も足も出ない。

 こうなったら…と私は手の中にある2枚の大型魔符に目をやる。

 どのみち検証なのだから、単属性担当としては目いっぱい大コスト魔術をつかいまくるべきだ。ならば今出せる最大の者を。幸いマナは足りる。


「何かしようとしてるみたいだけど、よそ見していていいのかしら? ワタシが今即時召喚使ったのちゃんとわかってる?」

「えっ」


 言われて場に目を移すと、残るもう一枚の土の壁が、軽装の槍兵に貫かれ土塊に戻っていた。


名称:殉教の突撃兵

マナ数:陽〇

区分:即時・召喚魔術

属性:兵士

攻撃:200

防御:0

生命:100

効果:なし


「攻撃型の即時召喚とかえげつない!?」

「何時現れるかわからない伏兵が横腹刺してくるのって怖いわよね」

「同感です!」


 おかげでこちらは丘巨人を残すのみ。相手は未だに健在な骨狼2体と突撃兵。影の呪縛で丘巨人が私をカバーするのを止められないから、骨狼は襲ってこないようだ。

 なら、ここでこれを使うしかない。マナ生成の検証の役には立つのだから。


名称:大龍脈

マナ数:土x7

区分:儀式魔術

対象:術者

次ターン開始時に土属性マナをマスターランクの最大値で得る


 初めに使った地脈活性の上位版だ。問題なければ、私は次の手番に土属性に染まり切った10マナを得る。現状の最大だ。


「こうなったら、これを使います。お望み通りに10マナ生成しますよ!」

「協力的なテスターには感謝するわよ。摸擬戦だから容赦はしないけど」


 ええい、何とか少しは師匠の驚く姿が見れないものか。恐らくほぼここまで全て師匠の想定内であろうことが少々悔しい。


5ターン目

ローウェイン:700

マナ:土土土土土土土土土土

ヘカティア:1000

マナ:陰火風陽〇


 お互いのマナが充填されたと同時に、私が何かするより先に師匠が口を開いた。


「先に行っておくけれど、この次の手番が終わったら摸擬戦は終了よ? 一番の目的だったマナの生成異常の検証はそこでわかるから」


 土属性の10マナが生成された私のマナ状況を確認したのだろう。師匠は恐らくマナ異常に関する事前に建てた仮説の正しさを確信したのだ。そして私に続ける。


「だからそこまで障壁をもたせなさい。期待してるわよ」

「…言われなくても!」


 余裕の表情のまま、そして楽しげな師匠に私は魔符を発動させる。

 現在生み出されているうちの最大コストを要する魔符。その必要マナ数は土を含む10マナ。

 同時に丘巨人でさえどこかの機動戦士じみた大きさだったことを考えると、とてつもないデカブツであることは疑いようもなく。だからこそ、呼ぶ。


「来たれ、『山脈揺るがす地王獣』!」


 手の中の魔符に魔力を通し、ソレ呼び出した瞬間、大地が揺れた。辺りが急に陰った。私の背後に降り立った何かが陽光を遮ったのだ。

 恐る恐る振り返ると、そこには山があった。踏みしめる足は6本それぞれが尖塔ところか城ほどの太さを持ち、背には山にしか見えない甲殻に覆われていた。


名称:山脈揺るがす地王獣

マナ数:土x10

区分:召喚魔術

属性:獣・王種

攻撃:1000

防御:900

生命:1000

効果:なし


 内心で、怪獣だぁとあっけに取られた私を誰が攻められるだろう。自分で呼び出しておきながら、呆然とするのは仕方がないことだと思う。

 余談ながら、この地王獣の召喚は森の外延部に近いトトラスの村の物見やぐらからでも見えたらしい。とんでもない大きさだった。

 とはいえ、これで形勢逆転ではないだろうか? いくら効果を持たないバニラモンスターとは言え、これの攻撃は通れば事前に設定された障壁値:1000を一撃で吹き飛ばせる。

 少しは師匠も動揺してくれたかと振り返ると、彼女は新たな魔符を手にしていた。


「大型召喚の検証としては十分だけど…やっぱり大きすぎて邪魔ね。除去するわよ」

「えっ」

「はい、『道連れの入水』。私の支配するモンスターをコストにして貴方の支配するモンスターを破壊するわ」

「あっはい」


名称:道連れの入水

マナ数:水〇

区分:即時魔術

対象:術者が支配するモンスター単体&対象モンスター単体

術者が支配するモンスター単体と対象モンスター単体を破壊する


 骸骨狼と地王獣は仲良く溺れ死んだらしい。まさしく幻のように巨大な獣は消え去り、のちにトトラスの村 の物見やぐらに居た唯一の目撃者は、魔女医としての師匠の下に目の異常の治療を求めに来るのだが、それは完全に余談だ。

 師匠の容赦なさは続いた。


「『爆破』で丘巨人も除去するわね。ガードできるモンスターが居ないから、突撃兵と狼が行くわよ?」

「ぐえ~」


名称:爆破

マナ数:火〇〇

区分:即時魔術

対象:対象単体

対象に300ダメージ


 きっちり丘巨人の生命値に300ダメが通り場が完全にがら空きになり、そこに師匠のモンスターが突っ込んでくる。

 一方的にやりこめられて段々私の語彙も死んで来た。

 つ、次の手番に何とか生き延びれば…


6ターン目

ローウェイン:700-300=400

マナ:土土土土土土土土土土

ヘカティア:1000

マナ:陰火風陽水


「予想通り、5属性だと6マナ目は生成されないわね。これで目安は出来たから、もう摸擬戦は終わらせましょ。降参しない?」

「いや10マナあれば私も防御要員召喚しますから!?」

「もう一体突撃兵を呼んだら、疾風突破で詰むわよね?」

「ぐぅ」


 ぐうの音しか出ない。確かに土属性だけではそれを防げない。土属性は妨害や直接のモンスターの除去は苦手だ。

 とはいえこのままただ降参するのも癪だ。

 なのでこうなったら最後の手段を取ろう。


「『大地震』! すべての術者とモンスターに500ダメージでせめて一矢を…」

「『断末魔の呪詛』 私の支配するモンスター1体を犠牲に魔符の発動を妨害するわ。犠牲にするのは骸骨狼よ」


名称:大地震

マナ数:土x10

区分:即時魔術

対象:全ての術者とモンスター

対象全てに500ダメージ


名称:断末魔の呪詛

マナ数:陰〇〇

区分:即時魔術

対象:自身が支配するモンスター1体と対象魔術

自身が支配するモンスターを破壊し、対象の魔術の発動を無効化する


「……あ~、うん。これはですね、師匠」

「自暴自棄は感心しないわよ? 大人しく降参していた方がまだましだったわね。はい、もう一体突撃兵。2体の突撃兵で攻撃ね」


 きっちりピッタリ障壁を消し飛ばされた私は、まったく手も足も出ずに完封負けを喫したのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

作中カード紹介


名称:骸骨狼

マナ数:陰

区分:召喚魔術

属性:不死・狼

攻撃:100

防御:0

生命:100

効果:なし

「瘴地では時に理不尽が群れを成す」


名称:地脈活性

マナ数:土

区分:儀式魔術

対象:術者

次ターン開始時に土属性マナを追加で得る。

「地に活力を さすれば大地は応えてくれる」


名称:土の壁

マナ数:土

区分:即時・召喚魔術

属性:壁

攻撃:0

防御:100

生命:100

効果:なし

「この土くれには巨人でさえ躓く」


名称:丘巨人

マナ数:土〇〇〇

区分:召喚魔術

属性:巨人

攻撃:300

防御:300

生命:300

効果:なし

「あの丘が見えるかい? あれがやつらの椅子なんだ」


名称:疾風突破

マナ数:風〇〇

区分:即時魔術

対象:術者

次ターン開始時まで、使用者が支配する2マナまでのモンスターは全て相手術者への直接攻撃が可能となる

「駆け抜ける風に乗れ! のろま達は置いてきぼりさ」


名称:殉教の突撃兵

マナ数:陽〇

区分:即時・召喚魔術

属性:兵士

攻撃:200

防御:0

生命:100

効果:なし

「死は祝福であり、我らが命とはこの槍である」


名称:大龍脈

マナ数:土x7

区分:儀式魔術

対象:術者

次ターン開始時に土属性マナをマスターランクの最大値で得る

「大いなる祝福の地を知れ。そこには全てがある」


名称:山脈揺るがす地王獣

マナ数:土x10

区分:召喚魔術

属性:獣・王種

攻撃:1000

防御:900

生命:1000

効果:なし

「山が動くのを見るのは初めてかい? 俺も初めてさ」


名称:道連れの入水

マナ数:水〇

区分:即時魔術

対象:術者が支配するモンスター単体&対象モンスター単体

術者が支配するモンスター単体と対象モンスター単体を破壊する

「水辺から伸びた手は、その者をつかみ引きずり込んだ」


名称:爆破

マナ数:火〇〇

区分:即時魔術

対象:対象単体

対象に300ダメージ

「火遊び厳禁!」


名称:大地震

マナ数:土x10

区分:即時魔術

対象:飛行特性を持たない全ての術者とモンスター

対象全てに500ダメージ

「その日我らは最も巨大なハンマーの上で暮らしていたと知った」


名称:断末魔の呪詛

マナ数:陰〇〇

区分:即時魔術

対象:自身が支配するモンスター1体と対象魔術

自身が支配するモンスターを破壊し、対象の魔術の発動を無効化する

「犠牲者の怨念が彼を苛み、秘術は霧散した」


解説:これらははカティアがマナ生成異常の検証のために急遽作成した魔符群である。

 「細かな調整はさておきとにかく種類を増やす」ことを主眼としたため、大味な効果となっている。

 一応各属性の特性には沿っていたため、模擬戦の体裁はなされていたがヘカティアとしては満足に至らぬ部分も多く、これらは今後手を加えられていくことになる。

 特に召喚魔術の様々な特性の付与は、即時魔術の試験的採用のみにとどまっていた為、次の開発主眼は様々なモンスター特性や能動発動能力へと向けられてゆくこととなる。

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