1.1『万能粒子テイル=呪力』入学歓迎講座の始まり! ヤンキー先生入場!

 京都総合高等学校。


 神秘と悪霊の街に在るその学校は、京都の有名な普通科公立学校――ではない。


 普通科など初等教育学校までの話だ。13歳で卒業したら中等教育として、京都の各地に設けられている専門技術や知識を学べる高等学校へと通う。


 この京都総合高等学校もまた専門学校の1つ。『総合』とは数多ある悪霊や神人との戦い方をこの学校ですべて学ぶことができる、という意味での『総合』なのだ。


 中は学校というより大型商業施設かのよう。1回のフードコート、4階のカフェテリアや店が並ぶ区画を見るともはやそうだと勘違いするほど。


 10人横並びでも通れる広い通路と吹き抜けの構造が、閉塞感を全く感じさせない理由の1つになっているかもしれない。


 そんなおしゃれな内装に驚きながら凛世が向かった講義室は、初めて顔を合わせる同級生であふれていた。


 この学校に入学式というものは存在しない。代わりにあるのは同級生との顔合わせになるオリエンテーション兼授業。


『ヤンキー先生による、新入生歓迎講義。お前ら、地獄へWELCOME編』


 見た目まったくウェルカムする気がない名前の授業を前に凛世はビビりまくりながら、上下ジャージでオレンジ髪のツインテールという奇抜な女子の隣に座ることになった。


「あんた一般人でしょ」


「うん……どうしてわかったの」


「雰囲気で分かるよ。私、円っていうの」


「安常凛世です。よろしくね」


「ええ。この学校生きて行けるなら仲良くしましょう。あ、嫌味じゃないから。ここ、マジでそういうところらしいから気をつけなよ」


「え……」


 確かに評判では少し厳しいところだと聞いていたが、それでも学校。そんな生き死にが関わるようなおっかないところじゃない。


 凛世はその点は前向きに考えてこの学校にやってきた。たとえ今まで学んだこともない、学ぼうとも思ったことのないことを学ぶ学校であっても。


「でも、ふうん」


「え、何か気に障ることしちゃった?」


「いやいや。そんな緊張しなくていいって。ただ、私の予感だけど、あなた……なんか将来大物になるかもね?」


「え?」


 凛世が最初に抱いたのは「からかわれている」という誤解。


「そんな、私なんて」


「だから頑張って生き残るといいと思う」


 その誤解を凛世は撤回する。凛世は円から自分を馬鹿にしている感じがあまりしなかった。もしかしたら本気で言っているのかとちょっとだけ思う。


(まさかね……)


 自分に何か才能があるかもしれない? 


 浮かれそうになったところを深呼吸で落ち着かせる。


 その時。


 本当に突如、頭に痛みを感じた。


「うぐぅ……いたぁい」


 あまりの痛みについ何かがぶつかっただろう頭の箇所をなでざるを得ない。


「大丈夫?」


 円が隣で突如痛みを訴える同級生を心配する。


「一体何が?」


「食らっちゃうのは無理ないわ。あんただけじゃない」


 その言葉に驚き凛世は周りを見ると、自分とほぼ同じリアクションをしている人もちらほら、教室の9割ほどが痛みを感じている顔をしていたのがわかった。


「殺傷能力が大きく下げられた呪術弾だったみたい」


「円さんは大丈夫なの?」


「私は慣れっこだしね」


「呪術弾って何?」


「その話は後にしましょう。多分これを撃った黒幕が入ってくるから」


 ガラガラと、教室前方のドアが開いた。生徒がほぼそろっている中で、堂々と前方から入ってくるならばおそらくこれから授業を行う教師だろうというのは想像に難くない。


 凛世はその姿を見て、その人が先生であるという理解を無意識に拒んだ。


 スキンヘッドにサングラス、革ジャンから見えている手は明らかにムキムキ。どう考えても生きる世界を間違えているような存在。


「1割ってところか」


「てめえ、やりやがったな! ぶっ飛ばしてやる」


 先生もおかしな人だったが生徒にもおかしいのがいる。


 凛世は次々にやってくる刺激と驚きに、わくわくと困惑が止まらなかった。


 先生に襲いかかったのは、着用するかは自由な制服を律儀に来ている背が高い男。後ろ姿だけで、今やってきた問題教師っぽい男に負けないマッスルを持っている。


「もしかして、ここってマッチョの集い……?」


「ふ、ははは! 違う違う。あんた面白い発想するね」


 円が笑ったその一瞬で襲い掛かった男子生徒はぶっ飛ばされる。近くにいた生徒はぎょっとしてそれを見守った。


 自分に降りかかった火の粉を払い、むしろ生徒をぶっ飛ばすという暴挙に出たその男は教壇に立つ。


 最初に一声。挨拶ではなかった。


「もしも俺が敵だったら、この場で9割以上のやつらが死んでたなぁ。それなのに俺にその目か――? なめてんじゃねえ」


 反論は出たが、それをヤンキー教師は声量で黙らせる。


「お前たちは戦う術を学びに来た! それはつまり! 相手にいち早く狙われる的になるってことだ。当然だ! 武器を持ってる敵を殺すのは戦いの基本。お前たちは今日から武器を持つ人間になる。油断は死に直結するぞ! 俺は生ぬるい生徒を育てる気はない。そのつもりでここに通え!」


 突如、その男が見せた威圧は、この場にいる全員を黙らせる。


「意外と……かっこいい先生かも」


「まあじぃ? ぎゃあ」


 飛んできたチョークに円が撃沈する。凛世の評価ははかっこいいではなく怖いに急転直下。


「ほう。あそこの女のほうがまだ気合入ってんなぁ。まあ授業中の私語はいただけねえ。静かにしろぉ?」


 最初の看板。ヤンキー先生というおかしい名前もこれで全員が納得することになった。


 あの先生は常識で測ってはいけない存在だと、このクラスの多くに周知された。


「今お前たちの頭をぶん殴ったのは俺が用意した呪術だ。お前たちは初等学校で呪術をどう習った。チョークでくたばったヤツの隣。答えろ」


 凛世は一瞬、ひぇ、と弱音をあげた。それは、当然、自分に質問が飛んでくるなんて思っていなかったから。


 間違ったら殺される……? と勘違いするのも、隣の円がくらくらしているところを見て思うのも無理はない話だ。


 ただ、冷静になってみると思ったより簡単だったので口が何とか動いた。


「人間には想像を現実にする術がある。人間の中にあるエネルギーを原料に、自分が想像したことを創り出す。それが呪術です。そしてそのエネルギーを呪力と言います」


「よし。簡潔に答えられたことはよく勉強できている証だ。及第点だな」


 凛世は殺されなかったことに一安心。


 講義は続いていく。


「初等学校では、それ以上エネルギーに関する言及は避け、実生活に必要な技能を学んでいったな? だがお前たちはもう高等学生だ。今日はお前たちに、そのエネルギーとは何なのか、それを学んでもらう!」


 凛世、だけでなくこの場に集まった生徒全員の目の前に資料を映した画面が展開される。


(わかりやすいし……イラストもいっぱい……!)


 可愛いデフォルメキャラのイラストとともに、余裕を持ったレイアウトながら整然と描かれている資料は、右上にすべてヤンキー先生直筆と書かれている。


「まぁじぃ?」


 いつの間にか復活していた円の開いた口がふさがらない。


 講義は進む。


「呪力とは京都独特の言葉であり、そのエネルギーとは、万能粒子、あるいは『テイル』という学術用語で呼ばれるものだ。この万能粒子にはいくつかの性質がある」


 資料の赤文字を注目するように指示をされ、凛世は素直に従った。




1 思考能力が高い生物が日々自分で生産している。


2 生物の意思と思考の影響を受け、思考の内容を再現するために質量、自身の性質を変え、結合を始める性質を持つ。ただし生物内にある間はその現象はほぼ現れない。理由は後述。


3 なんらかの方法で体の外へと出すことにより、2で書いた変化は急速に起こり、思考内容の現実化を行う。




「要は俺たちが考えていることを現実化する、本当に何でもなれるヤバい粒子が俺たちの体には一定数蓄えられている。これを万能粒子テイルといい、俺たちが普段『呪力』と呼んでいるものだ」


 そして、凛世が先ほど言った、自分の想像を現実化する術、それが2と3の内容に書かれている。


「自分の中にある呪力を操り、思考で粒子をどう変えるかを指示し、体外に出し、思考通りに粒子が変化を起こして、俺たちの考えた通りの現象を起こす。この一連のプロセスを、一般的に『呪術』と呼ぶんだ」


 講義は続く……

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