1 りんぜちゃんがヤンキー先生と学ぶ『テイル=呪力の基礎講座』(小説形式)

プロローグ 「何故ヤンキー先生なんておっかないヤツの授業を受けに来たんだ?」

 薄暗い道を女の子が1人歩く。


 彼女は目の前に画面を出して、今ハマっているゲームをしながら歩いていた。周りに人はほとんどいない。多少はながら歩きでも大丈夫だろうと。


 その光を見ている者がいた。


 どろどろ。どろどろ。


 暗闇からやってきた。急に泥の無いはずの地面から湧き出てくる。巨大な何か。


 それに彼女が気づいたとき。


 悲鳴を上げることもできないほどの緊張と。


「あ……死んだ」

 と、いう諦観が最初に襲ってきた。





 神秘と悪霊がうごめく街、京都。そこでは日々、人間を襲い殺そうとする、どこから現れてくるかわからない化け物との戦いが起こっている。


 彼らに立ち向かうのは、京都反逆軍、京都の治安を守り、化け物と戦うプロの戦闘集団だ。


 今日も街中にで出てきた化け物から人を救うため戦う。


「あ……」


 安常凛世、そんな危なっかしい京都に住む15歳。趣味はゲームとお絵描きの一般女子。彼女が今日の救助者だった。


 残念ながら運悪く悪霊と出会ってしまった彼女は、死を覚悟したものだ。


 上がゴリラに近い人型、下半身が大蜘蛛の姿をして、足が刃になっている化け物。


 そんな人間からかけ離れた化け物に前足で軽くなでられただけで、自衛の術を持っていない凛世はスライスされていただろう。


 その人が来てくれなければ、そこには言うことが憚られる地獄ができていたはずだ。


「ああ、助かった」


 凛世は自分を助けてくれたその人を見る。


 きれいな金髪のツインテールで、右と左に刀を持ち化け物と5秒戦っただけで前足4本を切り捨て、その後の射撃で頭を打ち抜き、その化け物を8秒ほどで片付けたスーパーヒロインだった。


「大丈夫ですか? かわいらしいお嬢さん」


 確かに凛世はその女性に比べれば背が低いのは見てわかった。


 助けてくれたその人は、身長は170センチで、凛世と10センチ以上差がある。


「うぅーん?」


「な、何でしょう?」


「きれいだなって思って。その髪。私も結構京都じゃ目立つ髪色だけど、あなたのもそうみたい」


 親から遺伝した白銀のしなやかな髪は凛世に取っては、数少ない自慢できることのひとつ。


「ともかく、間に合って良かったよ」


「ありがとうございました。あの、お名前は……」


「夢原希子。京都反逆軍のただの兵士だよ。今回は運良くあなたを助けられて良かった」


「運良く……?」


「いつもこうして間に合うわけじゃないしねぇ。ほんと気を付けてね。自分で身を守る術がない人は、あまり1人にならないことがおすすめだよ」


 確かにそんな街で人通りの少ない道を好む凛世は、恰好の獲物だったのかもしれない。


「せっかく大事な命なんだもん。できる限り大切にしないとね? じゃあ、表通りまでは護衛するよ。ついてきて」


 歩きだすその人についていきながら、凛世は今の出来事を振り返る。


 悪霊に襲われたのは初めてだった。


 確かに怖かった。そいつが殺そうとしてくるのが怖かったのは間違いない。


 でも助かったからこの恐怖は消えるはず。そう思ったのに消えなかった。


 少し考えて。凛世は自分の無知から来るものだと知った。


 この町は人間が当たり前のように暮らしている。平和に。


 ただ、本当は、この街は、人の命なんてものすごく軽いもので、死んでしまうのが当たり前の魔境なのだ。


 それが理解できてしまったから、心のその恐怖が残っている。


 知らなければ。自分を守る術を。そうしなければ大好きなゲームを続けられない。いや、そもそも生きられない。


 まったく戦いと縁がなかった凛世を戦いを学ぶ学校に駆り立てたのは、そんな運命の出来事。


 そう。この街にはそんな化け物と戦う術を教える学校がある。


 彼女は衝動のままにその学校へと赴いた。入学試験を受けるために。






 それが彼女の運の尽き。


 学校でヤンキー先生と出会ってから、彼女の、そこまでのつもりはなかったのに、1人前の戦士になっちゃうための、ヤンキー先生との楽しい(?)学びの日々が始まることとなる。

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