会う約束
それからの一週間は、終わってみれば一瞬で。
些細なことで言い合ったり、上手くいかずに落ち込んだ事もあった。
でも、僕はこの一週間の感想を聞かれたら、楽しかったと答えるだろう。
「ついに明日だな」
「そうだね」
「ウチら、スクリム三位らしいよ」
「まじ!? めっちゃ良いじゃん」
スクリムの参加チームは全部で20チーム、その中で三位なら上出来なのでは。
「思ったんだけどさ、ウチらプロいけんじゃね?」
「確かに、通用してはいたけど、そもそもプロリーグは年齢制限があって、少なくとも高校を卒業してないと参加できないんだよ」
「ああ、確かに前もそんな事言ってた気がする」
「というか、そもそもなんで僕たちがこの大会に招待されたの?」
今までも何個か大会には参加してたけど、どれも自ら参加を申し込んでの出場であって、招待というのは今回が初めてだ。
「いやさあ、先月さ春休みだからって、めっちゃランクやったじゃん」
ランクとはランクマッチの事で、対戦結果に応じてポイントを獲得していって他のプレイヤーと競うモードの事。
「確かに、おかげで生活習慣を戻すのに苦労したよ」
「それでさ、ウチ達世界三位だったわけじゃん」
「僕は四位だったね」
「それで、けっこう界隈の有名な人たちにも名前が知られてさ」
確かに、フォロワー数が異常に多い人が僕たちのプレイを褒める投稿をしてた気がする。
そのおかげか、僕のフォロワーも約二倍になった。
「まあ、そんな感じでウチたち界隈でけっこう話題になったらしいから、その流行りに乗っかってみたいな感じじゃないの?」
「なるほど」
知らぬ間に、僕は話題になってたらしい。
ただ楽しくゲームをやってただけなんだけどね。
「ところでなんだけどさ、そろそろだと思うんだよ」
「何が?」
急に声色が変わった桜。
いつもの自信に満ちたような声とは反転、自信がないというか、どこか緊張を感じる。
「いや、そろそろ会わないかって」
「桜は、僕に会いたいの?」
「そ、そりゃ、一年も一緒に遊んでるわけなんだから、どんな奴なのか知りたいだろ」
な、なんだろう、桜から乙女の波動を感じるんだけど。
中学の時に友達から恋愛相談された時と、同じ雰囲気を感じるんだけど。
因みに、その友達とは女子である。
「まあ僕も会いたいって気持ちはあるけど、確か住んでる所も近いんだっけ」
「普通に会える距離ではあったと思うよ」
「じゃあ、いつにする? 僕は土日だったら大体暇だと思うけど」
「ウチも土日は暇だけど……っていうか、良いの?」
「良いに決まってるでしょ、僕だって会ってみたいし」
「良かった、会いたくないとか言われたらどうしようかと」
「桜ってそういうの気にするタイプだったの?」
気にしないというか、もっと強引な感じだと思った。
そもそもゲーム一緒にやってる感じ、僕の意思なんか全然聞いてくれないし。
桜がやると言ったゲームをするし、桜が終わると言ったら終わる。
すごく悪く言えば自己中なんだろうけど、別に嫌な思いはした事はない。
そこら辺は、ちゃんと線引きがしっかりしてると言えるのだろうか。
「気にするだろ、こちとらピッチピチのJKじゃボケ」
「ま、まあ、とりあえず、詳細は大会が終わってからで良い?」
「そうだった、明日が本番だった」
「というか、厳密に言えば今日なんだけどね」
時計を見ると、深夜1時で日付は変わっている。
「もうそんな時間か、明日に備えて今日は流石に寝るとしようか」
「大会頑張ろうね!」
「おう! 100万取るぞ!」
「じゃ、お休み」
「お休みー」
通話が切れる。
久しぶりに、こんなに緊張しているかもしれない。
この一週間、本気で練習した。
大丈夫だ。僕と桜なら。
そんな気持ちを胸に、僕は眠りにつく。
* * * *
通話が切れた瞬間、嬉しさからウチこと、武蔵桜はベットにダイブする。
会える、一ノ瀬にやっと会える。
この時を一年待っていたんだ。
一ノ瀬と出会った日、顔の見えない相手に運命さえ感じたあの日から、ずっと願っていた。
その時、ラインの通知がスマホに来る。
画面を見ると、「大会絶対に勝とうね!」と一ノ瀬からのメッセージ。
ダメだ。止まらない。
早く会いたい。
早く会って話したい。
ありがとうって伝えたい。
思いの丈を、好きだと伝えたい。
顔も知らない相手に、恋心を抱くのはダメな事なんだろうか。
ダメと言われてもウチは止まらない。
好きだから。
この思いは、誰にも止められない。
そして、自分にも止める事が出来ない。
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