ゴールデンウィークの予定

 「は? この四人で行くに決まってんじゃん」


 その日の夜、林間学校の班をどうするかについて僕たち四人のライングループで、グループ通話をしていた。

 

 「だから、俺はそう提案したんだろうが!」


 相変わらず、この二人は仲が良いのか悪いのか分からない。

 仲が良すぎるが故にって感じはするけど。


 「私も、この四人で良いと思う」


 「じゃ、決まりだな」


 「というか、林間学校よりも先に決めなければいけない事が、私達にはにはあると思う!」


 何かを思い出したように、声を張り上げて早川は言う。


 「彩香、急に大声を出さないでくれ」


 「ご、ごめんハルちゃん」


 「それで、決めなきゃいけない事ってなに?」


 「ゴールデンウィークにどこに遊びに行くかって事よ」


 「確かに、折角だからどっか行きたいな」


 「ということで、ゴールデンウイークの暇な日を教えて?」


 「俺は毎日暇してると思うぜ?」


 「私も、特に予定はない」


 「二人はいつでもいいってことね。 じゃあ、涼ちゃんは予定ある?」


 「涼ちゃん!?」


 急に大谷のストレートを投げられたくらいの衝撃。

 いや確かに、これまでもちゃん付けで呼ばれたことはあるけれども。

 耐性がついているわけではないので、急に呼ぶのは勘弁してほしい。


 「いいでしょ? 可愛いじゃん、涼ちゃん」


 「いや、ちょっと、高校生にもなって、ちゃん付けはやめてほしいというか」


 「嫌だね、私は私が呼びたいように呼ぶから」


 「早川はこうなると止まらねーよ」


 横から新崎の言葉。

 諦めるしかないと言うのか。


 「そゆことで、涼ちゃんは空いてない日はある?」


 「僕は、最初の土日以外だったらいつでも良いよ」


 その土日は、ゲームの大会に参加するからと桜に言われている。

 なんか、招待されたとかで、まあまあ規模の大きい大会だったはず。


 「土日は無理と、ところで何の予定?」


 「え? あー、家族と旅行みたいな感じ」


 別に隠す必要あるのかなと思うけど。

 自慢ではないが、これだけFPSの大会で勝っているので、インターネットではそこそこ名前が知られている。

 現に、配信活動とか顔を出したりとかしてないのに、SNSのフォロワーが8000人を超えている。

 そういうの、同級生には知られたくないだろ普通。

 少なくとも、僕は自分のネットでの活動を知られたくない。


 「ふーん、それは流石に邪魔できないな」


 逆に邪魔するつもりだったの!?

 怖いわ、やっぱり早川さんは怖いわ。


 「じゃ、日にちは私が決めとくから、場所はどこにする?」

 

 「私は、特に希望はない」


 「俺も特別、ここに行きたい! みたいな場所はないな」


 みんな無欲だな。

 まあ、僕も特に何も浮かんでいないんだけど。


 「別に、今すぐ決める必要はないんじゃない? ゴールデンウィークまでまだ一週間近くあるわけだし」


 我ながら、素晴らしい提案をしたのではなかろうか。


 「確かに、じゃあ行き先はみんなで考えましょ」


 「分かった」


 「ま、考えとくよ」


 そんな感じで、通話は終わりへと向かう。



 * * * *



 グループ通話を終え、お風呂に入り一息ついた頃。

 一日一回、感謝のエイム練習でもしてから寝ようかなと思ったその時。

 僕のスマホから着信音が鳴る。

 画面には武蔵桜と表示されていた。


 「どうした、なんか用?」


 「用っていうか、あんたウチからのライン見てないっしょ?」


 「あれ、ごめん気づいてなかった」


 この、たまにある通知が来ない現象はなんなんだろうか。

 バグならはやく直して欲しいものだ。


 「今度の土日、大会出るって言ってたでしょ?」


 「それは聞いたね」


 「その大会がさ、思ったより凄い大会っぽくてね」


 「凄いって、何が?」


 「何がと言われると、全部かな」


 「全部ですか」


 全部と言われても、あまりピンと来ないな。


 「他の参加者はね、殆どがプロゲーマーらしいのよ」


 「はい?」


 「だから、相手がプロゲーマーらしいって」


 「まじで言ってんの?」


 プロゲーマーとは大会などで得た賞金で生計を立てる人や、スポンサー企業がバックアップにつくプロチームに所属する人のこと。


 確かに僕達は、ことFPSにおいては、そこそこの実力を誇る。

 ただまあ、そうは言ってもあくまで素人基準だ。

 プロゲーマー基準で見ると、僕たちはどうしても下の方の階級になってしまう。


 「でも、優勝賞金は100万だってさ」


 「100万!?」


 「そ、だからさ、ちょっと本気でやってみない?」


 「え、なに、僕達はまだ本気を出してないの?」


 僕はけっこう本気でやってきたつもりなんだけど。

 実力を隠していて、本気を出せば的なものはない。


 「いやさ、これまでの大会は、ほぼぶっつけ本番で出てたわけじゃん、実際、それである程度の成績は残していた訳だし」


 「言われてみればそうだね」


 「だからさ、この一週間本気で練習しない?」


 「練習って言っても、具体的になにすんの?」


 「とりあえず、この一週間、夜の九時から十二時までの間、大会のスクリムに参加します」


 スクリムとは、簡単に説明すれば練習試合みたいなものだ。


 「いや、僕は高校生なんだよ?」


 「ウチだって高校生なんですけど」


 「流石に、九時から十二時まで拘束されるのはちょっと、宿題とかあるし」


 「100万のためよ! ちょっとくらい我慢しなさい!」


 「そう言われましても」


 「良いじゃん、やろうよ! 絶対楽しいよ!」


 確かに、楽しいんだろうけど。

 楽しいのか。

 なら、一週間くらい良いのかな。


 「分かったよ、やるよ。 でも、やるからには優勝を狙うからね」


 「当たり前よ、私を誰だと思ってるの」


 「そうだね、桜も僕と同じだったね」


 「そうよ、やるからにはトップ! 100万貰っちゃうわよ!」

 

 意気投合した僕たちは、その後時間を忘れてゲームをしまくった。


 


 

 


 


 

 

 

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