ゴールデンウィーク

僕は告白される

 自分の部屋に戻った私は、正面からベットに倒れ込む。

 高校生初日は、出来過ぎなくらい順調だった。

 友達ができた。

 あの時の私には考えられない事だ。

 

 スマホを見る。

 画面には、私達四人のライングループ。

 それぞれが「よろしく」と挨拶を打っている。

 私もよろしくと打ち、送信ボタンに指を近づけた時。

 一瞬、あの時の事が脳裏によぎって指が止まる。

 大丈夫。

 私だって、成長しているはず。

 いや、しなきゃいけない。

 止まった手を動かして、送信ボタンをタップした。


 確かに私は、友達を失う辛さを知っている。

 でも同時に、友達といる時の楽しさを知っている。

 今度は、失わなければ良い。

 それだけの話だ。



 * * * *



 入学式から二週間が経ち、段々と高校生活に慣れてきた頃。

 僕たち四人の仲もだいぶ良くなってきていて、まさに順調の高校生活を送っていた。

 スタートダッシュに成功したと言える。


 さて、そんなノリに乗っている僕だが、波を大きくする出来事がまた一つ。


 「あなたに一目惚れしました! 俺と付き合ってください!」


 告白された。

 それは、放課後の校舎裏。

 帰る時に、靴箱を開けると一枚の紙が入っており、ここに呼び出された。


 さて、ここで君たちに一つの問いを投げかけるとしよう、

 君たちは、告白された事があるだろうか。


 僕はある。

 自慢ではないが、中学の時から結構な頻度で告白されてきた。

 どうだ? 羨ましいだろ。

 でもな、君は次の一言を聞いた時、羨望の眼差しは哀れみの眼差しに姿を変える。

 僕は、男にしか告白された事がない。

 そう、女子からは告白された事がないんだ。

 現に今、僕の前で頭を下げるこの人も男だ。

 僕は男であり、恋愛対象は女子だ。

 

 「えっと、僕は男なんですよ」


 「は、はい?」


 男は、戸惑った声で顔を上げる。

 中々のイケメン。

 どんくらいイケメンかと言えば、この学校のイケメンを集めてアイドルを作った時に、そのバックダンサーになれるくらいにはイケメン。

 

 「ほ、ほら、男の制服を着てますし」


 「え、男? こんなに可愛い娘が? 男?」


 見事な動揺っぷり。

 僕って、そこまで男に見えないんだろうか。


 「そう、だから今回の告白は無しということで……」


 「お、男でも構いません! 俺はあなたの事が好きなんです!」


 ええ!?

 良いの!? ありなの!?

 男だと分かっても、こんなに熱く求めてくるなんて、キュン。

 そんな事に、なるはずもなく。


 「いや、あなたが良くても僕が無理なんで、ごめんなさい」


 真顔で言った。

 

 「す、すいませんでしたー!」


 男は、涙目になりながらこの場から逃げていく。

 さながら、足が渦巻きに見えるほどに。

 それを見送って、僕は一つ安堵の息を漏らす。


 やっぱり、高校でも変わらず告白してくる男子はいるんだな。

 男の制服を着てるんだから、男だと分かって欲しいものなんだけど。


 「一ノ瀬って、けっこう辛辣なんだな」


 そんな声が後ろから聞こえる。

 振り返ると、カバンを肩にかけ腕を頭に組む新崎の姿があった。


 「ああいうのは、キッパリ断った方が良いんだよ、変に曖昧な返事をして期待を持たれる方が困る」


 普通は、僕が男だと分かれば諦めて帰って行くんだけどな。

 高校生はそんな甘くないってことか。


 「学園一の美女がいうセリフだろ、それは」


 「そもそもなんで新崎がいるの? 先に帰って良いよって言ったじゃん」


 「一人で帰るくらいなら、お前と一緒に帰った方が楽しいからな、待ってたんだよ」


 「早川さんと帰れば良かったじゃん」


 「あいつは橘と帰ってたからな、流石に女子二人に男子一人はきつい」


 「そういうもんなのかね」


 僕はこの見た目だから、女子の友達が多くて、あまりそういうのは気にしないんだけど。

 いや、それは慣れただけか。

 

 「じゃ、帰ろうぜ」


 「そうだね」


 言って、僕たちは上履きから靴へと履き替える。


 「そういえばさ、あれどうする?」


 「あれって?」


 「いやほら、先生が言ってたろ? ゴールデンウィーク明けに林間学校があるって」


 「そういえば、そんな事言ってたね」


 意外と早いんだという印象だった。

 もう少し、最低でも夏休み明けからだと思ってた。

 そういう、泊まりで行う行事は。


 「班が男女二人で四人って言ってたろ?」


 「言ってたね」


 「そんで、班をゴールデンウィーク前までに決めなければいけない」


 「なるほど」


 「それをどうするかって話し」


 「僕は新崎と一緒が良いけど」


 「おう、それは俺も同じだ」


 「え、良いの?」


 あっさりすぎて、逆に戸惑ってしまう。


 「良いも何も、俺とお前は友達だろ?」


 「そうだね」


 「それが理由だ、友達と班を組みたいってのは誰しもそうだろ?」


 「確かに。うん、一緒の班になろう!」


 僕にとって、男の友達は新崎が初めてと言える。

 そして、その最初の男友達が新崎で良かったと心から思う。


 


 


 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

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