朝の来訪者

 激動の入学式を終え、桜とバカみたいにゲームをした翌日。

 結局、桜とのゲームを終え眠りについたのは深夜二時を超えて、今日が休みだからってちょっとやり過ぎたかもしれない。

 まあ、楽しかったからいいか。


 今の時刻は十時三十分、本当はもっと寝てたかったけど、インターフォンの音で目が覚めた。

 僕の両親は共働きで、土曜日にも関わらず朝早くから家を出ている。

 故に、このインターフォンには僕が出るしか無いわけで。

 両親が言うには、僕は寝起きが凄い悪いらしく、自覚はないんだけど。

 だからまあ、出てきた人に迷惑かけなければ良いけど。



 * * * *



 私、橘春樹は訳あって、一ノ瀬涼の家の前にいる。

 そう、それはほんの三十分前に遡る。


 朝ごはんを食べ終え、暇になった私は漫画でも読もうかなと自分の部屋へ戻ろうとした時だった。

 ピンポーンとインターフォンが鳴る。


 「誰だよ、こんな朝から」


 そんな独り言を呟きながら玄関を開ける。


 「ハルちゃん、おーはよ!」


 うわ、朝からこのテンションはちょっとキツイ。

 早川彩香、隣に住む私の友人。

 まさか、朝からこんなハイテンションだとは思わなかった。


 「そんな露骨に嫌そうな顔されると、さすがの私も傷つくんだけど」


 「ごめん、ただ朝からそのテンションは流石にキツいなって思っただけ」


 「す、凄い正直に言っちゃうんだね!? ま、まあ、それが逆に友達と思ってくれてる感あって嬉しいんだけど」


 「それで、何のよう?」


 「そうそう、昨日ね新崎と話したんだけど、せっかくだから私たち四人のライングループを作ろうと思ってね」


 「なるほど」


 「それで、まずはハルちゃんを誘いにきたって訳」


 「うーん」


 と、一瞬考えはするが、


 「良いよ」


 その答えはすっと出てきた。


 「やった! じゃあ、後は涼だけだね」


 そっか、涼も含まれるのか。

 ん? ってことは涼のラインも知ることができるということか。


 「ということで、ハルちゃんには涼のラインを聞いてきて欲しいの」


 「はい?」


 「よろしくね」


 語尾にハートマークをつけながら、ニコッと笑う彩香の頼みを断ることはできなかった。


 そして今に戻る。

 流れで涼の家まできてしまったけど、男子の家のインターフォンを鳴らすのは初めてだな。

 なんなら、友達の家でも初めてかもしれない。

 言ってて悲しくなるな。


 そんな事を思っていると、ドアがガチャリと開かれ。

 目の前に、めちゃくちゃ不機嫌な一ノ瀬涼が現れた。


 「どちら様でしょうか?」


 いや怖いよ、声から怖いよ。

 そんなどす黒い声出せたの?

 どこ? いつもの天使みたいに可愛い涼はどこ?

 これじゃ悪魔だよ。


 「た、橘春樹と申します」


 「なんだ、春樹か」


 言って、涼は顔を上げる。

 いや、やっぱり怖いよ。

 なんなら、その鋭い目つきも見えて怖さが増してるよ。

 今の涼なら、女の子と間違える人もいないのではないかと思うほどに。


 「それで、何のよう」


 怖い、目を合わせただけかもしれないけど、めっちゃ睨まれてる気がする。


 「いや、えっと、彩香がね四人でラインのグループを作ろうって」


 「それで、僕のラインのIDを聞きにきたってことか」


 「そゆこと」


 お、ちょっと怖い雰囲気が収まってきた。


 「じゃあ、スマホ持ってくるからちょっと待ってて」


 言って、涼は自分の部屋へと帰っていく。

 なんとか、落ち着いてくれたみたいで良かった。

 寝起きだったのだろうか。

 なら、申し訳ない事をしてしまったな。


 「はい、僕のID」


 言いながら、スマホを差し出す涼。


 「ありがとう、それと起こしちゃってごめん」


 「いや別に、むしろ起こしてくれてありがとう」


 まだ目つきの悪さは取れてないが、その声はいつもの優しい声に戻っている。

 というか、そんなに可愛くて目つきが悪いのはなんかくるものがある。

 ギャップ萌え的なやつなのだろうか。


 「じゃ、私はこれで」


 「うん、じゃあね」


 「またね」


 言いながら手を振り、私は自分の家へと帰っていく。


 「春樹!」


 瞬間、そんな声に呼び止められる。


 「ん?」


 「おはよう!」


 その笑顔はとても可愛いくて。


 「うん、おはよう」


 私の顔も、自然と笑顔になった。


 


 


 

 

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