特技と親友

 「じゃあな」 

 「またねー!」

 「また」


 「またねー、みんな」


 別れの挨拶をすると、みんなはそれぞれの家へと帰っていく。

 それを見送って、僕も自分の家へと帰る。

 そう、見送れる。

 こんな偶然があっても良いのだろうか。

 同じマンションってだけでもすごいのに、みんなが住む階すら一緒だなんて。

 因みに、9階建てのマンションで、僕たちが住むのは8階、僕が801号室で春樹、新崎、早川と続く。

 806号室まであるので、この階を僕達で沢山とまでは行かないが……。

 こんな偶然あっていいのだろうか。

 一週間前に引っ越してきた僕だが、全く気づいていなかった。

 身の回りの事で頭がいっぱいで、あまり家から出られなかったってのもあるけど。

 それでも、こんな偶然が現実に起こってしまった。

 夢かと思って頬をつねってみる。


 「うう……痛い」


 ちょっと力の加減を誤った。

 と同時に、これが現実だと確定する。

 僕は一つ、大きなため息を吐き。


 「ゲームしよ」


 現実逃避する事にした。



 * * * *



 誰しも、特技というものを一つは持っていると思う。

 それはしょうもない事から、極めれば職業にさえなりうる。

 例えば僕、一ノ瀬涼の特技の一つ、それはゲームだ。

 ゲームと言っても、全てのゲームが得意なわけではない。

 小学生の時にやったスマブラやマリカーは、地元最強は愚か、同学年の女子にすら互角レベル。

 相手の女子が特別、強かったわけでもない。

 そんな僕が得意なゲームのジャンルは、FPSである。

 正確に言えば、ファーストパーソン・シューティングゲーム。

 簡単に説明すれば、一人称視点で行うシューティングゲームだ。

 ここ五、六年でブームと言えるほどにユーザー数を増やしたジャンルでもあるだろう。

 

 そのFPSこそが僕の特技である。

 五対五のスキルを使った爆破系FPSや、二人制のバトルロワイヤルとか。

 PCでやるFPSなら、僕はなんでも得意だ。

 そのくらいの自信がある。


 「持つべきものは、ゲーム好きの親って事だな」


 このゲーミングPCでさえ、父親が新しいのを買ったからと使わなくなったのを譲ってもらっただけだ。

 譲りものというが、スペックは申し分なく。

 殆どのゲームがぬるぬると動く。

 やはり、持つべきはゲーム好きの親という事だ。


 ゲームを起動したと同時に、僕はある人にラインでメッセージを送る。

 一言、


「やろ」


 とだけ。

 送信して既読がつくまでに二秒と掛からず、返信が来るまでに十秒もない。


 「良いよ」


 と同時に着信音。


 「やろうぜ一ノ瀬。今日はちゃんとウチの役に立ってくれよ?」


 言葉遣いは乱暴だが、ちゃんとした女の子である。

 武蔵むさしさくら、それがこいつの名前で、僕は桜と呼んでいる。

 武蔵は男の名前っぽくてやだと本人から言われたからだ。

 会った事はないので、どんな容姿をしてるのか分からないが、歳は僕と同じらしい。

 今年から華のJKだと散々自慢された。

 FPSは僕と同等かそれ以上に強い。

 あと、僕に対する暴言が多い。


 「役に立ってるレベルの働きはしてるつもりなんだけど」


 「うるせー!前の大会で二位だったのはお前のせいだからな?」


 「ぐっ、それは否定できない……」


 前の大会、そこで僕は、このマッチでチャンピョンを取れば総合順位で一位だった状況で、隣の家に投げようとしたグレネードの投げ位置を誤って自爆してしまうというミスを犯してしまった。


 「で、でも、あの場面でも優勝のチャンスがあったのは僕のおかげだろ?」


 「ウチとキル数とダメージほぼ変わらなかっただろうが」


 「それは……そうかもしれないけど」


 「終わり良ければ全てが良いように、終わりが悪ければ全てが悪いんだよ」


 「ぐぬぬ……、ほんとにすいません」


 「ま、責めるつもりはないんだけどさ」


 「嘘つけ!」


 どの口がいう。

 

 「ウチだってミスする時あるし、それをカバーし合うのが仲間ってもんだろ?」


 「それはそうだけど、さっきとキャラが違いすぎないか?」


 「ま、正直に言えば優勝出来なくてめっちゃムカついたけど、自分がミスした時にお前にめちゃくちゃ文句言われるのが嫌だから保険をかけとこうかなって」


 「最低だな」


 「別に、一ノ瀬が強いのは知ってるし、だからこそ一緒に大会とか出てるんだからさ、信頼してるんだよ一ノ瀬の事は、だからこそ文句もちゃんと言えるわけ」


 「そりゃあ、一年も一緒にゲームしてるからね、もう慣れてきたよ」

 

 「ウチも、一ノ瀬には慣れてきたかな」


 「僕って、慣れが必要なほど難儀な性格してるっけ?」


 「いや、何かに託けて一ノ瀬文句を言うのに慣れてきたよ」


 「それは慣れないでくれ」


 そんな会話をしながら、僕たちはゲームを始める。

 やっぱり、この雰囲気が落ち着く。


 「ところで今日、ウチは入学式だった訳だけど」


 「奇遇だね、僕も入学式だったよ」


 「やっぱり、JKは違うと思ったよ」


 「どういう意味?」


 「自慢じゃないが、ウチは結構可愛いくてモテるんだよ」


 その声は、いつも自慢する時のあのうざったい声ではなく。


 「だからさ、いっぱい話しかけられたわけ、どこの中学? とかどこに住んでんの? とか、ラインやってる? とか」


 「良いじゃん、友達がたくさんできて」


 「まあ確かに、ウチだって華のJKな訳だし、それなりにJKっぽい事もしたいなって思うんだけどね」


 「何か問題でもあるの?」


 「なんかさ、誰に話しかけられてる時もさ、心のどこかで、早く帰ってゲームがしたいって思っちゃってたのよ」


 その声からは、罪悪感が感じられる。


 「やっぱり、一ノ瀬とゲームしてるのが一番楽だわ」


 言って、あははと桜は笑う。


 「僕も、桜と話してる時が一番落ち着くかな、まだ高校に慣れてないってのもあるけど」


 「そうだな、これからも一緒にゲームしてくれよ?」


 「当たり前だろ、僕は桜のことを親友くらいには思ってるんだから」


 桜は僕が出会った中で、一番気が合うやつだ。

 

 「ははっ、ウチもだよ」


 どうやらそれは、桜も同じらしい。

 そしてその日は、桜と日が変わるまで銃を撃ち合った。

 

 

 

 

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