橘と早川

 「お隣さんだね! 私の名前は早川彩香、これからよろしく!」


 隣の席に座る美少女、早川が私に向かって言う。


 いや、え、嘘でしょ、私けっこう話しかけないでオーラ出してたと思うんだけど。

 何この人、あれか、コミュ力お化けか。

 そうか、誰とでも友達になるタイプの人か。

 いや確かに、こんだけ可愛いと誰とでも友達になれそうだけど。

 どんくらい可愛いかと言うと、一ノ瀬の次くらい。

 いや、それに並べるかも。

 金髪に青い瞳、ハーフの人なのかな?

 普通に染めてるだけって可能性もあるけど。

 ヤンキーっぽくは見えないし、あるとしたら地味な自分を変えるための高校デビューで染めたとか。

 いや、ないな。

 

 「よろしく」


 「ねえ、あなたの名前は?」


 「橘春樹」


 私は出来るだけ素っ気なく返す。

 ごめんな、私は友達が欲しいとは思ってないんだ。

 なりたいと思うのは一ノ瀬くらい。


 「ねぇ、橘さんってもしかして女の子?」


 「……そうだけど」


 それを聞いた早川は、驚いたというか、呆れたというような表情を見せる。

 

 「なんというか、二度目ともなるとあまり驚きが沸かないのね」


 「どういう意味?」


 聞くと、早川は廊下側の席を指さす。

 というか、その指の先には前に座る男と話す一ノ瀬がいた。


 「あのめっちゃ可愛い子いるでしょ、一ノ瀬涼って言うんだけど、涼が男だって知ったら、なんかあなたが女の子でもあり得るように思えて」


 「へー、あの子男なんだ」


 私は一ノ瀬の事を知らないフリをする。

 知ってるって言って、そこから話題広げられても困るし。

 ん? 今、一ノ瀬の事を涼って呼んでたような。


 「あれ、橘さん知らなかったの?」


 「どうして?」

 

 なぜその疑問が浮かぶ。

 

 「いや、体育館からずっと一緒にいたように見えたから、てっきり知り合いだと思ってた」


 見られてた。

 まあ、あれだけ注目を集めてたら仕方ないか。


 「いや別に、知り合いってほどではないかも」


 今の私と一ノ瀬の関係を表す言葉が見つからない。

 知り合いが一番しっくりくる気がするけど。


 「そうなの?」


 「まあ、ここに来る前から名前は知ってたけど、名前を知ってただけで、今日たまたま会ったから流れで一緒に行動してたってだけで」


 嘘は言ってない。

 というか、事実しか言ってない。

 これ以上でも以下でもない。


 「よく分かんないけど、取り敢えず友達って事?」


 「いや、まだ友達ではないと思う」


 一ノ瀬とは、もっと、ちゃんとした形で友達という関係になりたい。


 「ふーん、ま、とりあえずは私と友達になろ!」

 

 「は?」


 なにこの人、急に曲げてくるじゃん。

 そんな急カーブだと事故っちゃうよ。


 「いや、だから友達」


 ぽかんとする私に早川は再度言う。


 「それは分かってるんだけど……」


 変に会話しちゃったから断りづらい。


 「言っとくけど私、誰とでも友達になるわけじゃないからね、単純に春樹と仲良くなりたいから言ってるんだからね」


 その青い瞳は、真っ直ぐに私の目を捉えていて。

 その真剣な表情から、邪な気持ちは感じる事ができず。

 本当に、私と友達になりたいんだなって思わせてくる。


 友達か。

 確かに、私にだって友達はいた事がある。

 でも、友情を感じていたのは私だけで。

 あんな気持ちになるくらいなら、友達なんていらないと思っていたけれど。


 そう、私は一ノ瀬涼と友達になりたいと思っている。

 そして、


 「良いよ彩香、これから宜しくな」


 大丈夫だ橘春樹。

 二度目は、失敗しない。

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る