初日の終わり

 高校生初日と言う事もあって、緊張というか、色々と身構えてた部分もあったけど、いざ終わってみれば意外とあっさりしていて。

 まだ授業も何も始まっていないし、本当の高校生活というものを送れてはいないけど。

 なんというか、ホッとしたというか。

 やっていけるような気がした。


 ちなみに、僕たちの先生はクラスの男子曰く当たりだった。

 要するに、この学校で一番の美人先生という訳で。

 僕も、正直に言えば綺麗だと思った。

 というか、僕は男なんだからそう思うのは普通だろ。

 当たり前、これが普通の高一男子。

 そんなこんなで、僕の高校生活初日は終わりを迎える。


 「なあ、一ノ瀬って何で通学してんの?」


 今日もらったプリント類をカバンに入れながら新崎は聞く。


 「僕はバスだよ、家けっこう遠いから」


 というか、僕もまだ引っ越してきたばっかりでちゃんと家に帰れるか自信はない。

 

 「マジ? 俺もバスだから一緒に帰ろうぜ」


 ああ、僕の高校生活、こんなに順調できてんの良いのだろうか。

 初めてだよ、男の友達ができるの。


 「良いよ!」


 その言葉を聞くと、新崎は疑惑の眼差しを僕に向けてきた。


 「なあ、もっかい聞くが、お前は本当に男なんだよな?」


 「何回言わせるんだよ、僕は男だ」


 「じゃあお前、今早川の隣にいるイケメンに今の笑顔やってみろ」


 言われるがままに早川の隣を見ると、そこには早川と話す橘の姿があった。

 あの二人、仲良くなっている。

 いや、もしかしたら元々知り合いって可能性もあるし。

 でも新崎の言い方的に、橘の事あんまり知らないっぽかったし同じ中学って事では無さそう。


 「なんでそんな事」


 「いや、お前の笑顔を見たら大抵の男は惚れるぜ?」


 「え、じゃあ新崎も惚れたの?」


 「バカ、んな訳ねえだろ」


 良かった。

 それが理由で、今まで男友達が出来なかったんだ。

 

 「ま、新崎には早川さんがいるからね」


 「だから、そんなんじゃねぇって」


 そうは言うけど、あの雰囲気で何もないは無理があると思う。

 ま、からかいすぎるのも良くないか。


 「というか、そもそも早川さんと話してる人は女の子だからね?」


 「え?」


 新崎の目が点になる。

 そして、橘の事を二回、三回と見直して僕の方を向いて言う。


 「マジ?」


 「マジ、現に女子の制服着てるでしょ」


 「ほ、本当だ……」


 言って、新崎は顔色を悪くしながら右手で頭をおさえる。


 「ダメだ一ノ瀬、俺ちょっと頭痛くなってきたわ」


 「大丈夫?」


 「いやちょっと、脳が現実に追いついてないというか、一ノ瀬を男だって認識するのにも結構苦労したんだが、ちょっと、これ以上は限界だ」

 

 その気持ちも分かる。

 僕だって橘が女だって事に対して、頭が追いついていない感じがした。

 

 「そっか、それは大変だったね。帰って頭を冷やそうよ新崎」


 僕は、迷い人を導く聖母マリアの如く、新崎に手を差し伸べる


 「ああそうだな。ありがとう一ノ瀬、じゃあ帰るとするか」


 言って、僕たちは帰る準備をしていた。


 入学式とういうこともあり、親が来ている生徒も多かったからだろうか、教室に残っている生徒は気づけば僕たち四人だけで。

 というか、早川と橘が凄い仲良くなってる気がする。

 あのやばい雰囲気を除けば、可愛いギャルって感じの早川。

 まあ、ギャル要素は金髪くらいなんだけど。

 

 「じゃ、帰るとするか」


 準備を終えた新崎が、僕にそう言った時だった。


 「ねえ新崎、あんた今帰るの?」


 橘と喋っていた早川が、その場で新崎に聞く。

 

 「ああ、一ノ瀬もバスらしいから一緒に帰るところ」


 「じゃあ尚更丁度いいわ」


 「ああ? 何が言いたいんだよ」


 お、今の新崎、本当のヤンキーぽかった。

 なんて言ったら、本人に怒られてしまいそう。


 「一緒に帰りましょ、春樹バスらしいから」


 その時、運命を操る神がニヤリと笑った様な気がした。

 

 


 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

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