武器
入学式は何事もなく、順調に進んでいった。
校長先生の長い話や、新入生代表の話なんて全く覚えてないけど。
というか、校長先生の話とかを真面目に聞いてる人なんているのだろうか。
いや、いるんだろうけど。
いざ真面目に聞いてみたら、案外為になる話をしてる時もある。
まあそれが、僕の人生に影響を与えたのかと言われると、そうでもないんだけど。
兎にも角にも、入学式を終えた僕と橘は自分たちの教室を目指して校舎を歩く。
「ところで、一ノ瀬は何組なの?」
隣を歩く橘が聞く。
「僕は八組だよ」
「まじか、私も八組なんだけど、すごい偶然もあるものだな」
そう、言ってる割には、橘の声は淡々としている。
……嬉しくないのかな。
僕はちょっと、運命的なものを感じて気分が上がってたんだけど。
まあ確かに、つい一週間前にちょっと話しただけだし。
でも僕は、橘に特別な憧れを抱いてわけで。
仲良くなりたいと思ったわけで。
だから、僕はちょっと意地悪になってみる。
するりと、橘の前へ回り込み僕は言った。
* * * *
「あんまり、嬉しくない?」
瞬間、目の前に可愛いが広がった。
私の前に来た一ノ瀬が、腰を低くして上目遣いで私に聞く。
ちょ、ちょっと待って何これ。
可愛い、あざとい、無茶苦茶にしたい。
おっと、最後に欲望が混ざってしまった。
いやでも、これは仕方がないでしょ!
可愛い、可愛すぎるから! 無茶苦茶にしたくなる可愛さしてるから!
でも、一ノ瀬のこの感じ、なんだかやり慣れている気がする。
可愛いを武器にしてる。
自分の可愛さを理解してるからこその、この上目遣い。
なんて悪い子なの!?
え、てことは今までも世の女や男たちを、こうやってメロメロにさせてきたってこと!?
小悪魔、一ノ瀬は小悪魔だ。
ダメだ。
こんな子を野放しにしてしまえば……。
だから私は……
* * * *
それは、一瞬の出来事だった。
胸元を掴まれ、グイっと橘の顔の前へと引き込まれる。
そして、僕の耳に口を近づけて、こう言った。
「その可愛い顔、私以外に見せんなよ」
瞬間、僕の耳は破壊された。
橘のイケメンボイスによって。
いや、え、何が起こったの、てかそれどういう意味なの!?
なんなの、橘は少女漫画の世界からやってきたの? 来たって言っても信じるけど。
イケメンすぎる。
心臓がバクバクいって止まらない。
どうしよう、なんて反応すればいいの!?
分からない。
というかこの人、イケメンを武器にしてる。
自分がイケメンだと理解した動き。
いや、僕だって自分の可愛いを武器にして橘に意地悪しようと思ったけど、反撃が強すぎた。
倍返しなんてものじゃない。
クリティカルヒット、会心の一撃。
ダメだ、橘春樹は強すぎる。
そんな事を思った僕。
それから、教室に着くまでの間のことは何も覚えていない。
それくらい、橘春樹は僕にとって強すぎる刺激だった。
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