視線

  私の姿を見た後に、こんなこと言っても信じてもらえないと思うが、私は女である。

 自分でも分かってる。

 こんなイケメンが女、ましてや女子高生であるわけがないと。

 女子から、男子と間違われて告白されることも何度もある。

 それと同時に、女の醜い姿を何度も見てきた。

 嫉妬。

 なんで私じゃないの、なんであの子が。

 そんな声が聞こえてくる。

 ほんと嫌になる。

 その度に、もっと可愛くなれたらと思う。

 可愛ければ、女に告白されることもない。

 まあ、私が可愛くなるなんて無理なことだけど。

 私も私なりに、可愛くなろうと努力はした。

 でも、何もかもが絶望的なほどに似合わない。

 可愛くなりたいという願いは、叶わぬ願いだと悟った。

 理想を追い求めるのは、やめた。

 その時だったんだ。

 彼女……いや、彼と出会ったのは。

 まさか、私の理想の可愛さを持った人が男だとは思わなかったけど。 


 * * * *


 入学式において、橘との再会を果たした僕はそのままの流れで、一緒に式が行われる体育館へと向かっていた。


 いやしかし、今僕の隣を歩くこのイケメンの性別が女だなんて。

 信じられない。

 だがまあ、橘が女だからと言って、僕が彼女に抱いた印象が変わるわけでもなく。

 橘は、僕にとって理想のイケメン像なのである。

 ただまあ、言葉にしにくい複雑な気持ちではあるんだけど。


 「席って自由だっけ?」


 体育館に入り、何列も並べられた椅子を見て橘春樹は言う。


 「そうみたいだよ」


 「そうなんだ、でもこんなに椅子が並んでたら逆に迷っちゃうな」


 「もし良かったらさ、一緒に座る?」


 今の僕、けっこう軽い感じで誘ったけど、冷静に考えれば女の子を隣に誘ったってことになるのか。

 なんか、こうもイケメンだと異性だという感覚が掴みにくい。

 僕が女子に馴れ馴れしくされるのも、そういうのが原因なんだろうな。


 「良いよ、これも何かの縁だし」


 そう言われて、僕はなんだかホッとする。

 

 「じゃあまあ、適当にそこら辺に座ろっか」


 「オッケー」


 言って、僕たちは後ろの方の椅子に腰を下ろす。

 ……まあ、予想通りではあるんだけど。

 既に座っていた新入生の視線が一気に、僕と橘に集まる。

 それもそうだ、みんなの話題の中心になっていた人物二人が、一緒に座っているわけだから。

 やっぱり、いつまで経っても注目されることは苦手だ。

 みんなからの視線が痛い。

 そんな僕とは打って変わって、隣の橘はどこか堂々としている。

 そういう姿にすらも、憧れを抱いてしまう。


 「なんか、顔色悪いけど大丈夫?」


 心配までしてくれてる。性格までイケメンなのか。


 「いや、ちょっと、みんなからの視線がね」


 言って、僕はあははと乾いた笑みを浮かべる


 「確かに見られてるな」


 それでも、堂々として橘春樹は言う。


 「気にならないの?」


 単純な疑問として、僕は橘春樹に問う。


 「別に、私たちが何か悪いことしたわけでもないし」


 「まあ、そうだけど」


 「だから私は、気にしないことにした」


 そう言って、前方のステージを見つめる橘は、とてもカッコよく見えた。

 

 

 

 

 



 






 

 

 

 

 

 

 

 

 

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