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「ただいま、宇月」

「兄さん、もう帰ったの?おかえり。」

 二階には、菜月の部屋、夕月と宇月の部屋、そして寝室の三部屋がある。夕月は、机で勉強をする宇月を横目に、鞄を置きスマホを触る。気になったニュースの記事をいくつか読む。

「兄さん、今時間ある?ここ、教えてほしい。」

「えー、別にいいけど……どこ?」

「数学のこの問題が、解説を読んでも分からなくて。」

 夕月は勉強が得意というわけではない。中学の勉強は分かっていても、教えるほどではない。いつも、宇月は夕月の説明に物足りなくて菜月に聞くのがオチだ。それが分かっていると、夕月は勉強を教えるのが嫌になる。

「これはこう式変形できるから、こうじゃないの?」

「そうしたら、ここがおかしいんだよね」

「それ以上は教えられないから姉さんに聞いて。」

 夕月は手詰まりだった。菜月の話題になった途端、夕食が出来たと伝えられたため、二人は一階へと階段を降りる。

 三人分のよそわれたカレーが食卓に並ぶ。テレビをつけて談笑しながらそれを食べる。それが、麻陽家での日常である。

「やっぱり前の霊災害、大きなニュースになっているみたいだね。夕月があんなに早く倒したと言うのに」

「むしろ、早期解決しすぎて事が大きくなっているんじゃないかな。そんなことを言ったら兄さん、何も出来ないけどね。」

 夕月は霊災害の話題になると無言になった。できれば、その話題はしてほしくないのだ。

「兄さん、なんかごめん。そういや兄さんは……やっぱりやめておくよ。」

 暗い空気とカレーの香りが複雑に絡み合った。

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