第2話 事の発端~告白~
-二週間前-
私のデスクに接する島では、チームメンバーが何やら楽し気に話をしている。
特に仕事一辺倒でやってきたつもりは無いけれど、恋愛にもさして興味が無く、未だ独り身の私は気付けば、『チームリーダー』などという、面倒な肩書を背負わされてしまっていた。
そんな私は、陰で自分がどう呼ばれているかも、おおよその察しは付いていた。
【お局】
まぁ、ピッタリと言えば、ピッタリなのかもしれない。
チームメンバーとは、仲が悪い訳ではないものの、馴れ合う関係でも無く、時には厳しい事も言わなければならない立場であるのだから。
けれども、どの組織にも、一人くらいは特異な趣味を持つ人間がいるもので。
うちのチームでは、5年前に入社してきた彼、
当時私はまだ『チームリーダー』などというものではなく、ただの一メンバーに過ぎなかったが、基本的に、メンバーとの距離感は今と同じ。
仲が悪い訳ではないけど、馴れ合う事もしない。
だが彼は、周りのメンバーが少し距離を置いて私と接している事に気付いているのかいないのか、驚くほどズカズカと、私に接近してきたのだ。
それは、当時の私が彼の指導係についていた、という事も、一因となっていたのかもしれないけれど。
「
真鍋君が入社して1年が過ぎた頃。
仕事を終え、会社のビルを出たところで、私は真鍋君に呼び止められた。
真鍋君は、とっくに会社を出ていたはずだったのに。
「どうしたの?また忘れ物?」
真鍋君は優秀な人材ではあったけれど、入社当時から少し抜けている所があった。
忘れ物。凡ミス。
少し気を付ければ防げる単純なミスを、何度か繰り返し、その度に私は彼に注意をしていた。
入社後1年経てば、指導係もお役御免となる。
それでも私は、彼のミスを見つける度に、彼に注意を繰り返し、一緒にミスのリカバリを行う。
もちろん、私が彼の指導係だったから、という責任感からだけど。
何故か彼の事は、放っておくことができなかった。
「やだな、違いますよ」
少し笑って、彼は私に歩み寄る。
「こうでもしないと、澄香さんと二人きりで、話せないじゃないですか」
実のところ。
彼からは、何度も食事に誘われていた。
仕事終わりのみならず、ランチの誘いまで。
でも、私はその全てを断っていた。
仕事のメンバーとの必要以上の馴れ合いを、私は必要とはしていなかったから。
「何か、大事な話?」
「はい」
歩き続ける私の隣を、彼は並んで歩きながら言った。
「とても、大事な話です」
「明日、仕事の前に時間作るけど?」
「仕事の話じゃないんで」
「じゃ、何の話?」
「恋の話です」
「恋愛相談なら、他の人にして」
「相談じゃ、ないです」
「じゃあ、なに?」
「告白です」
私はその場で足を止めた。
彼も同様に足を止める。
そこは、会社から駅に向かうまでの、近道のとなる細い歩道。
ちょうど、街灯の真下で。
私たちは、まるでスポットライトを浴びているように、街灯に照らされていた。
「・・・・何の冗談?」
「冗談なんかじゃ、ないです」
確かに。
真鍋君の顔は、冗談を言っているような顔ではなかった。
もっと言えば、仕事中の顔よりもずっと、真剣な顔だ。
「澄香さん」
彼は、真剣な眼差しを私に向けたまま、言った。
「あなたが、好きです。俺と、付き合ってください」
私は瞬時に判断を下し、彼に伝えた。
「無理ね」
「なんでっ!」
食い下がろうとする彼を制し、私は言った。
「まず、私はいきなり下の名前で人を呼ぶような馴れ馴れしい人は好きじゃない。そして、私より仕事ができる人じゃないと、恋愛対象には成り得ない。それから、年下は恋愛対象外」
悔しそうに唇を噛み、彼は視線を私から外す。
これで、きっぱり諦めてくれるだろう。
そう思って、私は歩き出そうとした。
だが、私の予想は見事に外れた。
「俺、諦めませんよ」
挑戦的な光を瞳に浮かべて、彼は私を真っ直ぐに見た。
「だって、『澄香さん』って響き、俺、すごい好きだし。澄香さんを越せるかどうかは正直、今は自信ないけど。でも絶対、仕事ができる男になってみせます!」
「それでも年の差は変わらないでしょ?」
「そんなこと気にならないくらい、いい男になってみせます!」
正直なところ。
私はきっとこの時から既に、彼に気持ちが傾き始めていたのかもしれない。
自分でも気づかない内に。
「ストーカーで捕まらないようにね」
そう言って、私は彼をその場に残して、1人、駅へと向かった。
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