不自由な能力 003

静かな図書室。


「この問題はこの公式を使って……」


二人の少年少女の声が聞こえる。

その2人を微笑ましく見る図書室のおばあさん。

藍宮に数学を教えるため、放課後に図書室へ来ていた。

僕が少し教えるだけですぐに理解していく。


「教えてくれてありがとう」

「全く問題ないよ。飲み込みも早いから大変じゃないし」


彼女なら勉強すれば僕より賢くなるだろう。


「あれから異常は無いか?」

「ええ。夜になっても奴は現れなかったわ。それに父も帰ってきていいって言ってくれてる」

「なら家族のところに帰るのか?」


ということはもう会えないってことか。


「帰らない。もう1人暮らしが慣れたの」

「え?両親は心配しないか?」

「なかなか許可が下りなかったのだけれど、許してくれたわ」

「良かったな」


娘を1人暮らしさせるのは親にとって相当覚悟が必要だろうな。


「安心して。私の家の鍵、南京錠だから」

「南京錠!?」

「冗談よ」


こんな雑談をしつつ、紺輩は淡々と問題を解いていく。

勉強を始めて2時間が経ち、図書室が夕日の光に満ちる。


「そろそろ帰るか」


勉強道具を片付けて、図書室を出ようとした。


「待って」

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