不自由な能力 004

少女が校舎裏の木から女子トイレの窓を見つめる。


「もう……無理っ………!」


窓に向かって手を伸ばし、苦しそうな顔をする。

窓の向こうには数人の女子が大声で笑い合っている。


「これで……終わるんだ」

「何が終わるって?」


少女の視界に1人の少年。


「やっぱりここにいたのか。藍宮」

「近衛くん……。なんでここに……」

「喘息じゃなかったんだろ」


藍宮になぜここに僕がいるのかを話した。

まずは超能力の発動条件が分かってきたというのにとても冷静だったこと。


「最初から君は分かっていたんじゃないか?超能力の発動条件を」


そして、喘息と言っていた藍宮が山を軽々登っていたこと。

そんな病を持っているなら普通息切れが激しくなって途中で休む筈だ。

だがそのような症状は見られなかった。


「だから何故校舎裏で待ち合わせをした時、遅れたかを確かめたんだ」


僕は藍宮が終礼が終わった後、どこに行っていたかをクラスメイトの1人に聞いた。

聞くとトイレに行っていたという、簡単に考えれば至って普通だ。

それなら何故遅れた時、そう言わなかったんだ?

何か言えない事情があったのか。

他のクラスメイトに聞くと違うクラスのあるグループがトイレ内で藍宮のことをいじめていることが分かった。


「君は発動条件を知りたかったのではなく、自分の犯行に気づいて欲しかったんだろ」


藍宮が超能力を使おうとしていた先にいるのは例のグループだった。

何らかの能力を使い、恨みを晴らそうとしていたのだろう。


「………耐えられなかったの。あいつらに一方的にやられるのは」


この子は誰にも頼ることができなかったんだ。


「もう大丈夫だ。僕達がいる」

「僕達………?」


いつの間にかトイレ内が騒がしくなっていた。

窓の向こうにある人影が一つ増えた。




「あんた誰?」

「私は紺輩。貴方達に言いたいことがあって来たの」

「何だよテメェ」


声を荒げる奴らに近づく紺輩。

全く表情を変えず向かっていく。


「気持ち悪りぃんだよ。どけっ!」


紺輩が胸ぐらを掴まれる………

しかし次の瞬間、グループの1人は地面で仰向けになっていた。


「群がって1人をいじめるなんて醜いわね」

「あんた何なのよ!」


もう1人がポケットに隠していたカッターを取り出し、紺輩に刃を向ける。


「死ねぇぇぇぇ!」


カッターを振り上げるが、

ゴフッ!

振り上げて隙ができた腹に肘打ちを食らわせ、もう1人も倒れた。

2人の女子が地面に倒れ込み、痛みでもがいている。

残っていた数人が目の前で起こったことに怯えてトイレから立ち去った。


「これ以上醜いことしたら、どうなるか覚えといてって他の子にも伝えなさい」

「ここまでするとは流石だな」

「あら、来たの」


僕は藍宮と一緒に紺輩のところへ合流した。


「あなたが藍宮さんね。もうこれであいつらは何もしてこない筈だけど」

「私なんかのために……ここまでしてくれて本当にありがとうございます」


藍宮が眼鏡を外し涙目になりながら感謝する。

その瞳はとても綺麗な儚さを感じる藍色をしていた。

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