不自由な能力 002
超能力で被害が出る可能性を考え、人がいない山中で超能力の発動条件を調べることにした。
予定より少し先に集合場所に来て、藍宮を待つ。
待っていると遠くから渋い色のモコモコジャケットを着た私服の藍宮が来た。
あたりを見回し、あたふたしながら僕のことを探していた。
「藍宮!こっちだぞ!」
呼ぶと、目線を下に向け恥ずかしそうにしながら来た。
「よし。山登ってくか」
一緒に登山道に沿って順調に登っていき、山の中腹まで行った所で脇道にある平坦な野原に到着した。
周りには登山客もおらず、超能力をぶっ放すには絶好の環境だ。
「ここで超能力を見せてもらうけど、大丈夫そうか?」
「人もいませんし、能力を見てもらいたいのですが、実際使えるかどうかはわかりません」
「使えなくても発動した時と同じようにやれば何か分かるかもしれない。そうだな。ならあそこの木の枝を念動力で折ってくれないか?」
「はい」と返事をし、木の枝を見つめる。
しかし、枝に全く変化はない。
「やっぱり無理みたいです」
「前に使えたのはいつなんだ?」
質問すると、藍宮の目が泳ぐ。
「言ったほうが良いですよね……」
前に発動した超能力について語る。
2年前。
藍宮の母親が再婚をした。
相手はエリート銀行員で収入も良く、これから幸せな暮らしが送れる……はずだった。
父親は母親にはブランド品を買ったり気を遣い優しくする一方、藍宮には陰で暴力を振るっていた。
暴力をされていることは父親に口止めされていて、誰にも言えなかった。
母も父を信用しきっていて暴力について言っても信じてくれないと諦めていた。
そして、誰にも助けを求めれず、部屋に篭りひたすら父親を恨んだ。
口には出さなかったが、数え切れないほど恨みの言葉が込み上げてきた。
ある日、夕食を食べ終わり、部屋に戻ろうとドアノブを捻ろうとした時………
ガッッ!
父親に腕を掴まれ「俺の悪口言ってるだろ」と言われた。
藍宮は誰にも言わず我慢していたはずなのに、父親は私が悪口を言いふらしてると言った。
それから一段と暴力が激しくなったという。
「つまり藍宮の心の声が運悪く超能力によって当の本人である父親に伝わってしまったというわけか」
「はい………。今は両親から離れておじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしています」
両親が信用できないというのは辛すぎる。
そんな奴ら僕がいっそのこと叩きのめしてやりたいぐらいだ。
それにしてもなぜ父親に伝わって、他の人物には伝わらなかったのだろうか。
「もう一つあるんです」
1年前、藍宮がお爺さんとお婆さんの家に住み始めた時。
本屋から帰る道の途中、横断歩道で信号を待っていると、向かいから猫が家の塀から飛び出てきた。
藍宮は猫が好きらしくじーーっと見ていた。
その猫は横断歩道とは違う方向へ行こうとしていた。
そこまではどこにでもある普通の風景だった。
だが、猫から人間の顔のような見た目をした黒い靄が出現し、とても不審に思った。
何かがおかしい。
そして、藍宮の考えは的中する。
靄が見えた途端、猫が急に方向を変え、横断歩道を渡る。
信号はまだ赤でトラックが横断歩道を渡る猫に衝突しかけるが、離れた場所にいた藍宮は何もできず、手を伸ばしただけだった。
しかし、伸ばした手から何かが発される奇妙な感覚があった。
それと同時に猫が浮き、向かいの道へ誰かに引っ張られるように飛んで、無事トラックを回避した。
「その黒い靄というのは悪霊だろうな」
「やっぱり霊だったんですね」
黒い靄ならつい最近も見たのでよく知っている。
あいつらは取り憑いた相手を悪い方向へ誘おうとする。
もしその猫がそのあとも取り憑かれていたとしたら、もう…………。
藍宮には言わないでおこう。
父親への恨み……猫を救いたい思い……
「もしかすると対象に何か強い思いがないと使えない超能力なのかもしれないな」
「強い思い………ですか」
落ち着いた様子で聞く。
「そうだったら今日はもう発動できなさそうだな。こんな山の中にそんな対象は無さそうだ。また今度どうすれば使えるか考えよう」
「分かりました……」
僕たちは山を降りた。
「ありがとうございました」
藍宮はお礼を言い帰っていった。
「そういうことか」
今日藍宮に会って、能力の件とは別にいくつか疑問が増えた。
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