血塗られた魂 003

夕方家に帰った俺はまだ少女のことを考えていた。

決して一目惚れとかそういうのではない。

僕が思春期真っ盛りなのを考慮すると可能性は少なからずあるが。

どうしてもあの靄が頭から離れないのだ。

あそこまでの殺気を放つとは余程のあれであろう。

正気の沙汰ではないが、布団の中にバットを隠し持つことにしたが……


予想通りビンゴだった!

バットのおかげで少女の刃を防いだ。


「ほう、やるのう」

「お褒めに預かり光栄だ」


そこにいたのは夕方出会った女子高生ではなく、刀を持った化け物だった。


「夕方に会った時とはずいぶん雰囲気が違うようだが、本当に同一人物か?」

「あの子娘と一緒にするでない。わしは江戸幕府2代目処刑人である」

「さっきまで可愛かったお嬢さんが処刑人とはな」

「お主、あやつに惚れておるのか?滑稽滑稽、運が悪かったのう。この胸で抱いてやろうか?」


高笑いしながら腕を広げる。

明らかに別人だ。


「お気遣いどうもっ!」


ちょうど互いの間にあった机を少女に向かって蹴り飛ばすが、見事な剣裁きにより空中で真っ二つに斬られる。


「この程度で我に傷をつけれるわけが……いないじゃと」


あんな化け物とやりあうのは部が悪過ぎる。

机で一瞬目を眩ましている間に咄嗟に家から離れ、距離を取ることを優先した。

しかし、距離があるというのに背後から来る奴の気配が真後ろにいると思うほど強力に感じる。

僕は人気のない廃墟の家に入ろうとした。

そして鍵のかかっていない扉を開け……


「のろいのう」


背後から至近距離で刀を振り下ろそうとしていたため、家の扉を盾に防御を図ろうとした。


バキッ!!!


扉は斬撃により壊され、斬撃の圧力で端の壁まで吹き飛ばされてしまった。

ぶつかった衝撃で立ち上がろうとすると身体が軋む。

軽度の打撲を負ったか。

家の入り口では月の光により、嘲笑う少女の顔が照らされていた。

これほど恐ろしい光景ならばホラー映画のジャッケットに似合いそうだ。

冗談はさておき、壁にもたれた体を起こし、座敷の部屋へ向かう。


「まだ逃げるのか?飽きさせてくれるなよ」と言い少女がついてくる。


今にも崩れそうな構造をしている家なのか上から天井の砂埃が綻び落ち続けている。

端のタンスの影に身を潜めた。

静かな空間の中、こちらに向かってくる足音と床のひしめきが聞こえる。


「隠れとる場所は分かっておるぞ。早く出なければこちらから向かうが……」

「ああ、分かったよ。出ればいいんだろう出れば」


隠れることをやめ、少女の前に姿を見せた。


「潔いのう。そういう奴は好みじゃぞ」

「お前に好かれてもいい気はしないな」

「ハハハッ!わしはフラれたようじゃな」と顔に手を当て少女が笑う。

「分かっとるぞ。ここまで我を誘い込んだのは刀がうまく振れないようにするためじゃな。そんな見え透いた罠ではやられぬぞ」


そう言い再び笑う。


「この体が牢に入れられては我も思うように動けぬのでな。お主多少見えるのじゃろ?危険だと感じていたならこの街を出ればよかったものを」

「逃げるためにここに来たわけじゃない。人目がない場所でお前を確実に倒すためだ」

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