第18話 エルフの森
田中凛(=マージ・キュリアス)はどっぷりと魔法漬けであった。
エルフの森は防御結界が張られており魔物といえどもそうやすやすとは侵入できない。
そんな中、魔術職では最上級職である魔法師範のサイ・ナがマージ・キュリアスに猛特訓をする。
回復系の魔法が体内の魔力を操る魔法とすれば魔術は世界に満ちたエレメントを操る。
火・水・風・雷・土の五属性のエレメントを感じ取り、その力をある方向へ収束する。
言われてみれば道理だが実際に行うのは才能のある者でなければできない。
そして魔法士によって五属性の中で得意不得意が分かれる。
マージ・キュリアスは火と雷に才能があると見抜かれた。
「意識の中で炎をイメージしなさい、そしてそれを前方に放出しなさい」
そう言われて、最初の一週間は意識をコントロールするも全く何も起こらない。
それでも1日15時間は鍛錬をさせられた。
1日の終わりには食べていたものを全て吐き出してしまうような日もあった。
眠れずにベッドの中で枕を涙で濡らす日もあった。
自分には何の才能もないし、勇者なんて何かの間違いだ、そもそもなんで男の子になってるの?
神様?クーリングオフできませんかー?1週間以内ならいいんですよね?
などと天に問いかけている時もあった。
ただ、それも1週間が経過したある日のこと。
炎が
それも灼熱の炎が
目の前の森林を一瞬にして焼き尽くす炎が
あふれ出た。
その炎はおそらく魔法師範クラスでなければ使えないような上位魔法。
「さすがです、マージ・キュリアス殿」そう言ってサイ・ナは初めてマージ・キュリアスに笑顔を見せた。
次の雷魔法の習得は早かった。
雷魔法の習得を始めた初日の午後にはもう神の雷(トールハンマー)と言われるほどの魔法を放って見せた。
それを見届けた後、風魔法の勉強になった。
なぜ、不得意な風を習わせたかというと、風魔法によって空中を飛ぶことができるからだ。
ただ、そのまま空中を飛ぶことはかなり難しいのでエルフの森に生えている神木にまたがって飛ぶ。
この操縦はかなり大変だった。
真っすぐ飛んだかと思うと、止まれない、曲がれない、降りられない。
マージ・キュリアスは前進あざだらけになりながらどうにか習得した。
・・・あっちの世界でもあざだらけだった気がするなあ。
飛行の訓練を終えたマージ・キュリアスが自室に戻るとサイ・ナの子ミア・ナが迎えてくれた。
「勇者様、大丈夫ですか?」14歳の少女の笑顔は天使のようにも思えた。
・・・ぼ、僕は男の子、じゃないから、いや、女の子でも女の子が好きなことも。。。
「勇者様どうしたのですか?」完全に無防備なミア・ナは華奢な体を水色のワンピースで覆っていた。
「ミア・ナは僕が悪い人だったらどうするの?」
「ふえ?」
「僕がミア・ナにいやらしいこととかするかもしれないでしょ?」
それを聞くとミア・ナは急に恥ずかしそうな顔をして耳まで真っ赤になってうつむいてしまった。
「あ、ごめん、ね?そんな人じゃないから」
「勇者様なら・・・」
「あ、いや、ほんとに違うからね」
「からかったんですか?」そう言うと傷口に消毒液を大量に押し付けてくる。
「いたたたたた、痛い」
マージ・キュリアスとミア・ナは顔を見合わせて大笑いした。
魔法士の系統は上位ジョブに属性魔法のスペシャリストである属性魔法士、気候魔法に特化した風水師、剣術も使うことができるソードマジシャンに分かれる。
現実世界で剣道をやっていた影響もあってかマージ・キュリアスはソードマジシャンを選択した。
初期職の魔法士で絶大な魔術を使って見せたこともありこのまま専門職になるよりも伸びしろがあるかもしれないとエルフの長クオ・イも師匠のサイ・ナも賛成してくれた。
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