第1章 召喚

第7話 クリス・マージ


 4月6日水曜日


 曇っていて今にも雨が降りそうだった。


 1時間目からコミュニケーション英語だ。


 まだ眠さも残るがさすがにみんな集中している。


 1時間目の授業が始まって15分くらいすると雨が激しく降ってきた。


 コミュ英の担当の石塚先生がちらりと窓の外を見る。


 春雷


 近くに落ちたのだろうか、ひと際大きな雷鳴がしてクラスの女子が小さな悲鳴をあげる。


 一瞬教室の照明が消え、クラスがどよめく。


 すぐに照明は復旧したが


 1-Aの教室にはいるはずのクラス委員の4人


 加藤悠・佐藤千園・高橋海斗・田中凛の姿は消えていた。








 ...どこだ?


 ...雷?


 ...授業?


 ...呼ばれている?


 


 ”・・・クリス・マージ”


 頭に直接響くような、それでいて不快な感じではない。知らない名前、でもそれは多分私の名前。


 そう、千園は感じた。


 うっすらと目を開ける。


 学園じゃない?


 雲の上のような、どこかも分からない場所。


 そこに佐藤千園(=クリス・マージ)は横たわっていた。


 手を動かしてみる。


 ・・・あれ?長い髪の毛、え??ピンク色??


 胸元を見るといつも見慣れた貧乳ではなくFカップくらいありそうな巨乳が自己主張していた。


 ・・・え??誰?これ私??


 そして驚いたのは体が軽いことだ、生まれた時から長く付き合ってきた心臓病の気配がない。


 息苦しさも感じない。


 鏡で自分の顔を見たかったがどうやらここには鏡はないようだ。


 ・・・死んで転生した??そんなラノベみたいなことがあるの?


 ”あなたは死んではいません”


 「誰?」


 ”意思”


 「意思?」


 ”はい”


 「あなたが呼んだの?」


 ”呼びました”


 「何で?」


 ”あなた、いえ、あなた方が必要でした”


 「他にも誰か呼んだってこと?」


 ”あなた方はめぐり合うでしょう”


 「誰と?」


 ”最終戦争ハルマゲドン


 そう言い残すとその後は声が聞こえなくなった。



 

 神なのだろうか?


 周りを見渡すと神殿の跡地のようにも見える。


 神殿の内部は光源が不明の明かりで満たされている。


 どうやら2階のようだ。


 中央部分に祭祀に使われるような鏡があった。


 佐藤千園(=クリス・マージ)がそこを覗き込むと燃えるような赤い瞳の少女が映っていた。


 ・・・これが私?


 なんとなくポーズを取って見る。


 長い髪の毛を束ねてポニーテールのようにしてみる。


 服装は学園の制服ではなく白い麻のワンピースであった。


 なんとなく上半身をかがみFカップの胸が強調されるような姿勢になってみる。


 ・・・ってなにしてるんだろ。


 そう考え直して階下へ降りて行った。




 1階に降りた千園を迎えたのは数十人の女性であった。


 「クリス・マージ様」


 「クリス様」


 「クリス・マージ様だわ」


 そこに集まった女性たちは10代から30代くらいだろうか?


 感極まって涙を流す者までいる。


 代表者だろうか30代くらいの女性が千園の前に来る。


 「お待ちしておりました」


 「はい?」


 「【神の代理人】クリス・マージ様ですよね?」


 「私は・・・・」佐藤千園と言おうとするとなぜか言葉にならない。


 ここは修道院のようだ。


 遠くの方にはまだ小さな子どもたちもいる。


 身なりからすると修道院に引き取られた子どもだろうか。


 そこに居合わせた全ての人が千園の一挙手一投足を見逃すまいと千園を見つめている。


 

 「はい、クリス・マージと言います」


 「神様ぁ」


 「クリス様」


 「クリス・マージ様」


 そこに居合わせた修道女と子どもたちは熱狂的な歓声を上げた。

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