第5話 痕
体力テストが終わるとその日の授業も終わりだった。
クラス委員の4人は教室に残り様々な仕事に追われる。
クラスの役職間の調整や学年連携・生徒会との連携もクラス委員の仕事だ。
事務的な仕事は千園が得意で率先してこなしていく。
海斗と凛も目の前の作業を黙々とこなしていっている。
悠だけが少しぼーっとしているのか仕事がはかどっていない。
クラス委員の仕事は基本的には誰もいなくなった1-Aの教室で行うが6時半になった頃担任の小岩先生が入ってきた。
「仕事熱心なのはいいことだが、今日は帰りなさい」40代くらいだろうか?少しお父さんのようなところのある優しい先生だ。
クラス委員の4人は小岩先生の指示に従ってその日は帰ることにした。
悠と千園は上尾駅方面へ歩き、海斗と凛は駅とは反対方向に歩く。
「千園、先に帰っていいよ」
「ん?どうしたの悠?」
「いいから帰れよ」そういう悠の目から大粒の涙が溢れている。悠は子どものように涙を手で拭う。
「そっか、悠は悔しかったんだよね、頑張ったね、かっこよかったよ」
千園が自販機からジュースを買ってきてくれた。
悠は手に持ったまま動けない。
「悠が頑張り屋さんなの私が一番分かってるんだから」
「あーあ、俺かっこわり」
「大丈夫、青春してるね」
「次は勝つからな」
「うん、応援してるよ、悠」
千園からもらったジュースを一気に飲み干すと大宮駅方面の上り列車に2人で乗り込んだ。
「大活躍だったね海斗君」
「あ、そうかな?」
「僕にはそう見えたよ」ウルフカットの前髪を少し触りながら海斗の方を見る。
「ほんとにすごいのは悠だよ、あいつは努力でどんどん速くなっていく、俺は生まれつき運動が得意ってだけだ」
「そうかな?朝とか海斗君がランニングしてるのよく見かけるよ」
「きのせいだ、それと、凛」そう言うと海斗が真剣な表情で凛の方を向く。
正面から目が合うと凛はドキドキしてしまう、自然と目を背ける。
「腕見せられるか?」
「え?」
「あざあんだろ、腕と足」
「・・・」
「無理に言う必要はないけどさ、ラインでもなんでも言ってくれよな、これでもクラスメートだからさ」
「うん」そう言って俯くと凛の瞳から涙が
「あ、ばか、泣いたら俺が悪さしたみたいじゃない?」
「僕、優しくされたことないから」
「これで拭いとけよ」そう言ってバッグからハンドタオルを出して凛に渡した。
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