閑話① 傍受記録
情報入手経路は秘匿。SISの擁する獲得者(精神感応者)による傍受と推定される。
以下、3人の超越者による会話。便宜上A、B、Cと記載。
A「ヴィサロの消失は確かか」
B「はい、こちらからの呼びかけに応答が無く、当該事実が確認された数時間後に彼の担当国家1より宣戦布告あり。この惑星の住民は警戒心が強く、我々を消失し得る手段を確保したことによる行動と思われます」
A「その手段とは?」
B「大きな可能性は獲得者でしょう。それ以外に彼らが我々に干渉する手段がありません」
A「肯定する。しかしヴィサロはこの惑星の住民の感情・思考を研究していた。そう簡単に消失させられるとは思わない」
C「しかし事実としてヴィサロは消失した。つまりこの惑星の住民は、彼の裏をかいたということだ」
しばらくの沈黙。時間にして約20秒。
A「ならば、これからどうする?君達の担当地域に存在する国家も、同様に我々と敵対すると思うか」
B「ヴィサロの担当国家1の宣戦布告とほぼ同時に、私の担当国家1の代表が接触を希望しました。会話のみでの接触の結果、引き続き私に協力するとの連絡でした」
A「君の担当国家は問題無しか。だがヴィサロの担当国家と同じく、我々の裏をかく可能性がある。くれぐれも注意しろ。思考の傍受は止めるな」
B「承知致しました」
C「私の担当国家は駄目だな。ヴィサロの担当国家1の宣戦布告と同時刻、こちらからの接触要請に応えなくなった。物理外殻への干渉は無いが、外側へ移動すれば消失の危険性がある」
A「しかし、君の担当国家は我々のように主要な1国家さえ押さえればいいものではなかった筈だ」
C「肯定する。だが、主要な経済力を持つ国家は軒並み要請に応答しない。応答があったのは小国のみ」
A「承知した。ならば五分五分だな」
B「この会談も傍受されている危険性があります」
A「承知している。最低限の情報と対応策の連携のみ済ませる」
C「対応策というと、まずヴィサロの件の調査か」
A「そうだ。カーンの担当国家が非協力的な以上、私かエルナが対処する必要がある」
C「具体的には?」
A「ヴィサロを消失させた者の確保が必要だ。関係者も含めて。この惑星の住民が物質概念から離脱できていない以上、思考器官の入手が必須となる」
B「であれば、私が対処します。研究中のサンプルの稼働記録が取得できるので」
A「任せる。思考器官は無傷が理想的だが、最悪腐敗状態でも問題は無い」
B「承知しています」
A「それでは、ここから先は各々のタスク消化に専念する」
B「はい。必要な連絡は済ませたので、思念を切ります」
A「エルナ」
B「何でしょうか?」
A「君の研究成果の連携は、継続して必要だ」
B「承知しました。定期報告は続けさせて頂きます」
この会話を最後に、個体Bの発言は無い。尚、個体Bの他個体より呼称された名称『エルナ』は、実際には発音の難しい音波であり、発音し易い言語に直したものであることを付記しておく。また、これは続きの会話記録に頻出する個体名称も同様である。
以下、個体Aと個体Cによる会話。
C「シルク、君の担当国家について聞いていない」
A「私の担当国家の状況はエルナと同様である。ヴィサロの担当国家1の宣戦布告から惑星時間で約1時間後に接触があった。我々との協力を引き続き行いたいとの旨」
C「承知した。結果、私とヴィサロの担当国家と、意思統一の図れていない国家を除いて、この惑星の約半数が敵に回ったということだ」
A「物理外殻の干渉は本当に無いのだな」
C「肯定する。この惑星のどの国家も、どんな獲得者も、我々の物理外殻に干渉する手段は無い。あくまで現時点での話だが」
A「ならば、早急にこの惑星でのタスクを完了させる必要がある」
C「シルク」
A「何だ」
C「獲得者の存在の判明時、君は即座にその危険性を察知し、早急に手を打った。その判断を私は支持してきた」
A「そうだ」
C「しかし現時点での状況を鑑みるに、それはこの惑星の住人を敵に回す、誤った判断だった可能性がある」
A「しかし当時は、我々の賛成多数で可決した」
C「肯定する」
A「現在の我々の行動が重要だ。使命を忘れるな、カーン」
C「承知している」
超越者の会話記録は以上となる。
当該会話記録では、個体Cより『シルク』と呼称された個体Aが会議の議事を務めている。当該個体が超越者の指導者的立場なのか、単に会議の進行役であるのかは現時点では判別不能である。
個体Aより『カーン』と呼称される個体Cは、会話の内容から個体Bよりも地位が高い、もしくは個体Aに近しい間柄であることが推察される。
傍受記録より考察、以上。
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